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SMASH BROTHERS STORY 第7話「再会」

 『こんにち我々が「竜」という呼称を与えている生物は、かつてはこの大陸はおろか、世界全体を通して生態系の頂点に君臨していた。
 彼らは想像を絶する巨躯の持ち主であり、大きな翼で宙を舞う事も出来たと考えられ、口からは高温のブレスを吐き、他の生物を圧倒していた事が数多くの神話や伝承に残されている。
 同時に、独自の文明や技術を創り上げるに足る程の優れた頭脳をも備えていた。
とりわけ魔道に関する知識の豊富さでは、現在の我々ヒトですら遠く及ばぬ物である事は誰もが認めざるを得ないであろう。
                               (中略)
 時代が下り、「人竜戦役」においてヒトに敗退した事をきっかけに、竜はこの地上の支配権を失い、歴史の表舞台からは姿を消した。
彼らが果たして何処に行ったのか、我々はいまだに明確な答えを導き出す事が出来ないでいる。
 しかし、世界の様々な場所で竜が力の象徴として崇められ、神話伝説の中に登場するのは、かつての人類が竜の存在をそれ程までに畏怖していた事の証左であると言えるのは確かだ・・・』
(カナス・ニーズヘッグ著:『古代人が見た竜』137~139ページ)

 マリオがかつて読んだ本の中には、とうの昔に滅んだとされる竜の事を、そんな風に書いてあった。
だが彼もまさか、生きている内に竜の実物に出会う機会があろうとは全く予想していなかっただろう。
「畜生…、これじゃ本当に竜が復活したみてぇだな……」
 背中に光り輝く翼を生やし、空中を飛び交いながら火炎のブレスを吐いてくる、スーパードラゴンと化したヨッシー達の攻撃をかいくぐりながら、マリオが呟いた。
 彼に同行している緑ヨッシーも、この事態は流石に予想外であった為か、困り果てたような表情を浮かべている。
「せめて僕らも空を飛べたらいいんですけどねぇ…」
「もっともな意見だが…、それは無理そうだな」
 仮に条件さえ満たしていれば、マリオも彼と同様の結論に達していた筈だ。
しかし、マリオ達が空を飛ぶ為には、マント羽根や青コウラといった特殊なアイテムを使用しなければならず、今は手元にそれらのアイテムは無い。
 マリオとヨッシーが攻めあぐねている一方、スーパードラゴン達は彼らの攻撃の届かない上空から無数の炎のブレスを吐いて攻撃してくる。
「ぬおぉっ!?」
「あわわっ!?」
 着弾と同時に広がる熱気を帯びた衝撃波をもろに浴び、マリオとヨッシーは思わず仰け反った。
「マ、マリオさん、ここは一旦逃げた方がいいですよ。あれは最早我々の手には…」
「いや、それは駄目だ」
 ヨッシーの提案をマリオは頑なに遮った。
 というのも、この場でスーパードラゴン達を仕留めておかなければ、更に被害が拡大する恐れがあるからだ。
「し、しかしですね……」
 ヨッシーが尚もマリオを説得しようと口を開いたその時、彼らの背後から聞き覚えのある呼び声が響き渡った。
 彼らがその方向を振り返ってみると、ルイージがこちらへ駆け込んでくる所であった。
「おーい、兄さーん! ヨッシー!」
「ルイージさん、何故こっちに?」
「まさか、向こうでも何かあったのか!?」
 兄の問いに、ルイージは肩で息をしながら答える。
「いや、城の方はもう大丈夫だよ。ハイラル騎士団の人達が加勢してくれたからね」
「そうか…。なら姫様はご無事でいらっしゃるんだな……」
 この非常事態において、マリオが最も心配していた事は、ピーチがこの騒ぎに巻き込まれて被害に遭う事であった。
だが、ひとまずその危険は回避されたと分かり、彼は安堵の溜息を漏らした。
「うん。それで、ハイラルの人達がこっちにも増援に来てくれる事になったそうだから、その事を兄さん達にも伝えておこうと思って」
 マリオはルイージの話を聞き終わるや否や、やおら立ち上がった。
「いや、そんなもん待ってる場合じゃねぇ! 俺は先に行くから、お前らはハイラルの連中と合流しとけ!」
 突如として闘志を燃やし始めたマリオを見て、ルイージは唖然としながら言った。
「ちょ、ちょっと…、そんなボロボロの状態じゃあいつらには太刀打ち出来ないって……」
 忠告も聞かず城下町の中心部に向かって走り出すマリオを見て、ルイージは溜息を漏らした。

 ポートタウンで起きた乱闘騒ぎから数日経ったその日、サムスはジョディ・サマーからの通信を受けて、ミュートシティの銀河連邦支部を訪れていた。
 銀河系においては屈指の規模を持つ大都市であるミュートシティには、スペースダイナミクス社・G&R社などの名立たる大企業が軒を連ねている他、F-ZERO用のレース場も設置されており、文明的には非常に発達した場所であるといえる。
 しかし、その文化的水準の高度さに比例するかの如く、この街で起こる犯罪も捜査機関の裏を掻くようなハイテクを駆使したものが多い。
 その中には高額の賞金がかけられたお尋ね者もかなりの確率で紛れているので、サムス達バウンティ・ハンターにとっても格好の獲物となる。
そういった賞金首を捕らえた際には、いつもジョディの配属されているこの街の連邦支部に引き渡していたので、サムスにとってそこは馴染みのスポットとなっていた。
 一目見ただけでは、その中身がうら若き女性だとは想像し難い重厚なパワードスーツに身を包んだサムスは、連邦支部の受付にジョディに面会したいという旨を伝えると、彼女は現在会議に出ているというので、会議が終わるまでの間待合室に待機させられる事となった。
 自動開閉式のドアをくぐり室内へ入ると、そこには既に先客がいた。
 そいつはサムスの姿を視界に捉えると、静かに唇の端から笑みをこぼす。
「フン…。やはりお前もジョディに呼び出されたか、サムス・アラン」
 そこにいたのはキャプテン・ファルコンであった。
口振りからすると、彼もどうやらジョディからの連絡を受けてここまで来たらしい。
 サムスとファルコン、この二人のバウンティ・ハンターが同じ場所に揃うという事は、ジョディは数日前にポートタウンの酒場で起こった違法取引に関しての情報を彼女達に与えるつもりなのだと当人達にも予想が出来た。
「何か有力な情報は入ったか?」
 サムスが待合室の中央のソファに腰掛けると、ファルコンが挨拶代わりにそう尋ねてきた。
「いいえ、今の所は何も」
「そうか…。俺の方でも独自に調査していたんだがな、一つだけ分かった事がある。お前にも一応教えておいてやろうと思ってな」
 ファルコンの話を黙って聞いていたサムスは、その時パワードスーツのヘルメットの下で怪訝そうな表情を浮かべた。
「…どういう風の吹き回し?」
「まぁ聞け。お前にとって無関係だとは言えん話だからな」
 そう言って、ファルコンは間に一呼吸を挟んだ後、再び口を開き始める。
「…件の酒場でやり合った兵隊達の事を覚えているだろう。奴等はな……」

「ぬぉりゃあっ!」
 持ち前の高いジャンプ力を活用して屋根から屋根へ飛び移り、空中へ跳び上がったマリオは、スーパードラゴンの内の一体にメテオナックルを浴びせる。
 下ベクトルに強く作用するその一撃を受けたスーパードラゴンは、地面へと真っ逆さまに落下していった。
「…グ…、ガガ……」
 スーパードラゴンは尚も立ち上がろうとするが、流石にダメージが大きかったらしく、すぐにその場に崩れ落ちて、再び起き上がる事は無かった。
 生きているのか死んでいるのか、今の状況下のマリオには確かめる余裕はない。
「…少しやり過ぎたか…」
 着地し、体勢を立て直しながらも彼は不安に駆られる。
 その瞬間に生じたわずかな隙を狙い、残りのスーパードラゴン達がマリオ目掛けて一斉に火炎弾を放った。
仲間を攻撃された怒りからか、ブレスの勢いは以前よりも増していた。
「くそっ!」
 ファイアボールで炎を相殺しつつ反撃の隙を窺うマリオであったが、スーパードラゴン達はマリオを完全に敵として認識しているらしく、徐々に彼の下に集合し始めていた。
 マリオを見据えるその眼は、明らかな敵意に満ち溢れている。
 だが、その強烈なまでの殺気は、キノコ王国の英雄と呼ばれるこの男の闘争心にも火を点ける。
「へっ…。来るなら来やがれ…」
 マリオがファイティングポーズをとった次の瞬間、彼の背後から多数の声と足音が聞こえてきた。
何事かと思い後ろを振り向くと、鎧兜に槍を装備した武装集団がこちらに向かっている最中であった。
 彼らの掲げている隊旗には、ハイラル王国の象徴たる聖三角が見える。
「!? …ありゃぁ、ハイラルの近衛騎士団か?」
「おい! いたぞ、あそこだ!」
 ハイラルの騎士達はマリオとスーパードラゴンの姿を捉えると、即座に陣形を変更し、彼らの間を分かつようにマリオの前に壁を造り上げた。
「…貴方がマリオさんですね。この恐竜達は我々ハイラル王宮近衛騎士団で対処しておきますので、どうかお下がり下さい」
 騎士の一人がそう言うと、残りの兵士が槍を構えて一斉にスーパードラゴンを取り押さえ始めた。
 流石に王宮騎士の称号を持つだけあって、彼らの行動は見事なまでに統率されており、無駄が無い。
闘争本能に従うだけのスーパードラゴンが、そんな集団と戦った所で勝ち目がない事は明白だ。
 ハイラルの騎士達は確実にスーパードラゴンを追い詰めていくが、生き残りの内の一匹が未だ抗い続けており、追撃を逃れて空中へと浮上していく。
それを見た兵士の一部が手槍を投げつけて攻撃に打って出るが、最後のスーパードラゴンはそれらをいとも簡単に回避し、お返しとばかりに火炎弾を地上目掛けて乱射する。
「ちっ、しぶといな…」
 マリオは再びファイアボールを発射しようとするが、後方より聞こえてくる若い男の呼びかけによって、その力が行使される事は無くなった。
「伏せろ、マリオ!」
「?」
 初めて聞くにしては、何処か懐かしさを感じさせるその声に、マリオは咄嗟に反応して身を屈める。
 すると、彼の頭上をかすめるようにして一本の矢が飛んで行き、スーパードラゴンの翼を射抜いた。
 翼ある生物に対して特に効果のある弓矢による攻撃を受けて、スーパードラゴンはとうとう力尽き、地面に墜落していった。
 その光景を目の当たりにした者は、誰もが太陽に近付き過ぎた為に翼を失い、地に落下したイカロスのエピソードを思い浮かべるであろう。
 そう考えると、このスーパードラゴンと化したヨッシー達も、本来なら持つべきでない力を手にしてしまったせいで身の破滅を招いた、哀れなイカロスであったのかも知れない。
「…どうやら、今ので最後だったようだな」
 そう言ってマリオの前に現れたのは、他の兵士達とは異なり鎧をまとっていない緑衣の青年だった。
彼の姿を一目見て、マリオは即座に七年前に知り合った、緑の服を着た小さな剣士の面影を投影する。
「お前…。まさか、コキリの森のリンクか!?」
「ああ。しばらく振りだな、マリオ」
 七年前に出会った頃、マリオはキノコ王国のしがない平民であり、リンクもまた剣士としては駆け出しの身だった。
 しかし、時を経て再会を果たした時、配管工は国の英雄と称され、コキリの森の少年はハイラルの王宮騎士となっていたのである。

 ハイラル騎士団の協力を得て暴走したヨッシー達の鎮静化に成功したマリオ達は、気絶させた彼らをピーチ城前の庭園に運んで行き、そこで応急処置を施す事となった。
と言っても、マリオは回復魔法が使える訳ではないので、実際の作業は城の医者に任せ、再会したリンクとの雑談に興じているのだったが。
「いやぁ、しかしお前がハイラル王宮の近衛騎士になってたとは驚きだぜ。
しばらく見ねぇ内にすっかり立派になっちゃって、なぁ……」
 マリオが初めてリンクに会った時、彼の身長はマリオよりも低かった。
それが今や、リンクの方がマリオより頭一つ分勝るまでに成長しているのである。
 彼がその事をリンクに指摘してみると、リンクからはこんな反応が返ってきた。
「へぇ、俺の身長はそんなに伸びてたのか。自分じゃあまり実感が湧かないんだがな」
「何言ってやがる。よく思い出してみろ、昔はお前、見上げねぇと俺の顔が見えなかったじゃねぇか」
「そうか、そう言われれば確かに…。俺はてっきり、あんたの背の方が縮んだのかと……」
「んな訳ねぇだろ、おい!」
 冗談とも本気ともつかないリンクの発言に、素で怒りを露わにするマリオ。
 だが、そのような反応は彼自身が背の低い事を気にしていると自白するようなものであり、傍から様子を見ているリンクは、マリオのそんな姿を見て微苦笑を誘われた。
「はは、悪い悪い…。あんたも気にしてたんだな、身長の事は」
「るせぇ! 俺にとっちゃ切実な問題なんだよ!」

 …などとふざけ合っているマリオとリンクから、少し離れた木陰に一人腰掛けているゼルダの姿があった。
 高度な魔法のスキルを持つ彼女は、戦闘後にここへ連れて来られたヨッシー達の治療を自ら買って出たのだが、予想以上に魔力を消費してしまい、回復の為に休養を取っている最中だった。
「どう、少しは落ち着いた?」
 木の根元に腰掛けているゼルダの元へ、ピーチが歩み寄る。
 ゼルダが回復魔法を多用し過ぎて体力を消耗していた事にいち早く気付き、しばらく休憩するよう進言したのは彼女であった。
「はい…。お陰様で、大分魔力も回復出来ました」
 すっと立ち上がりながら、ゼルダが言った。再びヨッシー達の治療に戻るつもりらしい。
「あら、もう休まなくてもいいの?」
「ええ」
「今は緊急事態だし、自分も何か力になりたいって気持ちは解かるけど、あんまり無理しないでよ」
「すみません、ご心配をおかけして……」
 申し訳無さそうにうつむくゼルダに、ピーチが慌てて言葉を繋いでいく。
「あっ、ううん、気にしないで。こっちこそ、折角来てくれたのにこんな事に巻き込んじゃって…」
 そこまで言った時点で、ピーチは近くで話をしているマリオとリンクの姿を発見した。
 彼ら二人が知り合いであった事を今日初めて知った彼女は、詳しい話を聞く為に声をかけようとするが、ゼルダによってそれは遮られた。
「今はそっとしておいて差し上げましょう。積もる話もおありでしょうし…」
 ゼルダの説得に、ピーチも納得したように頷いてみせる。
「まぁ、それも一理あるか…。でもあの二人、何時の間に知り合いになったのかしら?」
 小首を傾げるピーチであったが、一方でゼルダは彼らの様子を見て、穏やかな笑みを浮かべていた。
「……少し、安心しました」
「何で?」
 ピーチの問いに、ハイラルの聖女はリンクが王宮騎士として国に仕えている時の事を話し始めた。
 彼女はリンクがまだ城に仕える前から彼を知っていたが、気真面目かつ厳格な性格のその青年は、子どもの頃から自分の感情を表に出す機会が極端に少なく、寝食も惜しんで剣の修行を続けるという生活を送り続けている。
 一兵士として考えれば彼の行動は実に模範的なものだが、個人としての観点ではあまりに窮屈なその行為を、ゼルダはずっと気にかけていたのだ。
 だが今、目の前でマリオと話しているリンクは、時折笑みを漏らすなどして、非常に安らいでいるように見える。
 リンクにも、マリオのような気の置けない仲間がいると知った事が、ゼルダの安心した理由である。
「ふ~ん、そっか…。つまりゼルダもリンクにとってもっと身近な人になりたいって思ってる訳ね」
「えっ!?」
 ピーチの言葉に、ゼルダは過剰なまでの反応を返した。
それは、彼女がリンクに対して特別な感情を抱いているのを事実上認めたという事だ。
「わ、わたくしは…、その、彼の事を主として心配しているのであって、そのような個人的な感情は決して……」
 端麗な顔を僅かに赤らめ、うつむき加減で話すゼルダの様子から、まんざらでもないと確信したピーチは更にこう続ける。
「え~っ、ほんとかな~? さっき貴女がリンクと話してるのを見たけど、何だか瞳がキラキラしててすっごく嬉しそうに見えたんだけどなぁ」
「そ、そうでしょうか…?」
「うん、あの時のゼルダ、とっても可愛かったわよ」
 悪戯っぽく笑みを浮かべて、ピーチはゼルダの頬に軽く人差し指で触れた。
「か、可愛いだなんて、そんな……」
 同年代の女性と知り合う機会も無い為、かような言葉をかけられた例しの無いゼルダは、すっかり赤面してしまうのであった。

「あの連中はな…、『ブタマスク』という名前らしい」
 あくまで真剣な面持ちで語るファルコンを前にしても、バイザーの下に隠されたサムスの表情が変化する事は無かった。
 しかし、彼女は明らかに落胆しているような溜め息混じりの声で言った。
「貴方に少しでも期待した私が愚かだったわ」
 それを聞いたファルコンが憤慨する。
「待て! まだ話の途中だ!」
「あら、それは悪かったわね」
 続けてちょうだい、と言って、サムスはファルコンを促した。
「ったく…」
 機嫌を損ねつつもファルコンが口を開こうとした矢先、再び待合室の中に入ってくる者がいた。
 サムスとファルコンをこの場へ呼び出した張本人、ジョディ・サマーである。
「二人共、ごめんなさいね。思ったより会議が長引いちゃって……」
「いや、むしろ丁度いい頃合いだ。二度話す手間が省けたからな」
 役者が揃った所で、ファルコンはサムスとジョディに以前ポートタウンの酒場で交戦した奇妙な兵隊・ブタマスクについての情報を伝え始めた。
連中が裏の社会での活動を始めたのはつい最近で、主な活動内容は違法兵器の取引だと言われている。
 中でも『キマイラ』と総称される生物兵器の扱いには非常に長けており、その技術の高度さはスペースパイレーツにも匹敵する程であろうと噂されているという。
「なるほど…。この間の件で彼らがダークポケモンを入手しようとしたのも、キマイラの製造技術に転用する事が目的ってところかしら…。ダークポケモンも一種のキマイラと言えるものね」
 銀河連邦の公式発表の内容とファルコンのもたらした情報とを照らし合わせて、サムスはそう結論を下した。
 連邦サイドの公式発表では、ポートタウンでの一件で拘束された裏の運び屋達が密輸していたのは、ダークポケモンを収めたモンスターボールであるとされている。
 過度の薬物投与や、思考統制などによるレギュレーション違反の肉体改造を受けた携帯召喚獣達は、『ダークポケモン』と呼び習わされている。
彼らはポケモンが地球外へ持ち込まれ、それらの地でもポケモン同士の模擬戦闘が行われ出した頃から既に存在していた。
 銀河連邦の捜査によって、ダークポケモンを製造する組織の存在が明らかにされ、ただちにその組織には解体させられたものの、そのどさくさに紛れてダークポケモンを産み出すノウハウが他の犯罪組織にも流出してしまった。
そうした結果、現在でもダークポケモンは闇の取引に利用され続けているのである。
「しかし、そんな事を大っぴらにやってりゃスペースパイレーツの奴らが放っておかんだろう。
ブタマスク共の勢力が拡大する前に潰そうとするんじゃねぇのか?」
 ファルコンが唸るように呟くと、次の瞬間、ジョディが焦燥した面持ちで口を挟む。
「ちょ、ちょっと待って」
「ん、どうした?」
「あの兵隊達…、もう既にスペースパイレーツと繋がりがあるのかも知れないわ」
「な、何だと!?」
 ジョディの仮説に、ファルコンはオーバーリアクションで反応したが、一方でサムスは冷静なままであった。
というのも、彼女にはジョディがそのように考える根拠として、思い当たる節があるからだ。
「そうと結論づけるのはまだ早いんじゃないか? 今の所は情報が少な過ぎる」
 疑念を抱くファルコンに対して、サムスがすかさずジョディを援護射撃する。
「ファルコン、先月起きたキマイラ強奪の件…、覚えているわよね?」
 サムスに指摘され、ファルコンも遂に全てを理解した。
「そ、そうか…。あの時キマイラを輸送していた銀河連邦の船を襲撃したのが…、奴らだと言いたいんだな」
 ジョディは、無言で静かに彼の言葉を肯定した。
「フン…。スペースパイレーツとブタの兵隊共、そしてダークポケモンをばらまく連中か……。
ダークミリオンの奴らもまた動き始めたと聞くからな。こいつは随分賑やかになってきたじゃねぇか」
 宇宙の静寂を乱す新たな脅威の出現を予感しつつ、ファルコンはソファの上に深く腰掛けた。
 その様はまるで、これから始まるであろう闇の勢力との抗争を、何処か心待ちにしているようにも見える。
「…とはいえ、ファルコンの言うように現段階では情報が少ない事は確か…。
引き続き、地道に捜査していく必要があるわね」
 サムスの発言が、この日の会合を締め括るものとなり、三人は一旦解散し、再び情報収集に回る事となった。

「二人共、今日はわざわざ付き合ってくれてありがと。
二人も忙しいだろうし、無理な相談だとは思ったんだけど…」
 その日の内にミュートシティを起つというサムスとファルコンを見送りに行く際に、ジョディが言った。
「いや、気にするな。こっちも仕事が一段落して暇だった所だ」
「それよりジョディ、貴女も用心しなさい。スペースパイレーツが武力の増強を図ったとなれば、確実に銀河連邦を潰しにかかるだろうから」
 などといった会話をしつつ、三人が連邦支部のロビーの辺りへ差し掛かると、先頭にいるジョディのもとへ近付いてくる者がいた。
「ジョディ先輩、この間の調査資料なんですけど…」
 彼女に話しかけてきたのは、ファー付きの青い上着を羽織り、銀髪の頭にサングラスを載せた若い女性だった。
 どうやらジョディに任務での報告をしたかったようだが、背後にいるサムスとファルコンの存在に気付くと、話すのを中断する。
「あ、すみません。お客様でしたか」
「いいのよ、リリー。この二人は私の個人的な付き合いだから。貴女にも紹介しておくわ。サムス・アランとキャプテン・ファルコンよ」
 そう言って、ジョディはこの場を去ろうとした女性を引き止め、サムス達の前に連れていった。
「お二人の事は存じ上げています。ジョディ先輩からよくお話を伺いましたから」
 銀髪の女性はそんな反応を返した。
「この子はリリー・フライヤー。今年から私と同じ高機動小隊の配属になったのよ」
 リリーと呼ばれた女性はジョディに紹介されると、「どうも…」と頭を下げた。
「ほぅ、見た所まだ若そうだが、実力は有るらしいな」
 感心したように呟くファルコン。
 だが、それも無理の無い事であった。
 銀河連邦の高機動小隊と言えば、組織内でも精鋭ばかりを集めた部隊として有名なのである。
そして、実際にリリーは訓練生だった頃、戦闘のシミュレーションにおいてトップの成績を叩き出す程の実力者であった。
「ジョディ、私達の事はもういいから貴女も自分の仕事に戻るといいわ」
 サムスはそう言って、ファルコンと共に支部を後にするのであった。

「どうだサムス。久し振りに二人で飯でも食いに行かねぇか?」
 スターシップやファルコン・フライヤーといったマシンを収容したガレージの中で、ファルコンはそんな事を言ってきた。
「遠慮しておくわ。この後も予定が入ってるから」
 ファルコンの誘いをにべもなく断った後、サムスはスターシップに乗ってミュートシティを発ってしまった。
「フン…。まぁ、あれも奴なりの照れ隠しだと思っておいてやるか…」
 サムスに先を越されてしまい、一人ガレージに残されたファルコンは、そう言って苦笑するのであった。

 一方のサムスは、ファルコンと別れた後、とある小さな惑星のゲームセンターを訪れていた。
 施設自体は既に使われなくなっているらしく、暗い店内には様々な機械の破片が散らばる廃墟と化している。
「なるほど…。ここは人目を避ける為にはうってつけの場所だという訳ね」
 匿名のメールによってこのゲームセンターへ来るように言われたサムスは、そんな事を考えながらスキャンバイザーを稼働させつつ、周囲を見渡していた。
 実は、サムスは過去に何度か同じような事態に遭遇した経験があった。
 銀河系屈指の優秀なバウンティ・ハンターと評価されるサムス・アランだが、それだけに同業者からの反感を買う事も多く、彼女を始末してその地位に取って代わろうとする輩は後を絶たない。
 もっともサムスを純粋にライバル視しているキャプテン・ファルコンは例外として、本当に実力のある者ならば、わざわざ彼女に勝負を挑むという事はしないのだが。
彼女がそれらの挑戦者を無視せずに応じている理由は、その者達から情報を手に入れる為なのである。
「……そこにいる事は判っている。姿を見せなさい」
 スキャンバイザーによって生体反応が検知された場所にアームキャノンを向け、相手を挑発するサムス。
 もしこれにかかって攻撃してくるようであれば小物なのだが、今回の相手はサムスの予想の斜め上をゆく行動に打って出る。
あろう事か、そいつは彼女の目の前に堂々と現れたのだ。
「クククク……。相変わらずの臆病ぶりだな、サムス・アラン」
「…っ!  貴方は…、長官…」
 頭のてっぺんから足の先までを黒い装束に身を固めたその男を見て、サムスは驚愕した。
その男はかつてサムスも所属していた世界各地から強者達を集めた組織の創設者で、自らを長官と呼ばしめていた人物だったのだ。
「今更何の用? あの組織は既に解散した筈」
 サムスの言葉に、黒装束の男は俯いて不敵な笑みを浮かべる。
「クククク…。そうだ、最早小生にとって貴様らは利用する価値も無ければその必要も無い。
だが、小生があの組織の中で築き上げたコネクション…、それが役に立つ時が来たのだ」
「コネクション…?」
「貴様は宇宙海賊のことを探っているらしいな。情報が欲しいのなら、クク…、地球のキノコ王国へ行け。
そこで貴様の知っている奴らに会う事が出来れば、事態は大きく変化するだろう」
「一体どういう事?」
 そんな情報を伝えた所で、この男の利益にはならない筈である。
 黒装束を問い質すサムスであったが、彼の口からは納得の行く答えは得られなかった。
「貴様の凡庸な頭脳では小生の考えが理解出来る筈も無かろう。
仮に知りたいと思うならば小生の言葉に従う事だ」
 傲慢な態度で吐き捨てた後、黒装束はその身に纏っていたマントを翻し、掻き消えるようにして姿を消した。
「(キノコ王国…。まさか、彼に逢わせようという気なの…)」
 黒装束が去って、その場に一人残されたサムスはしばらくの間思案に暮れていたが、やがて決断を下す。
「(あの男が何を企んでいるかは解らないけど、今は少しでも多くの情報が必要…)」
 彼女は、地球へと向かう事を決めたのだった。

<第7話 用語集>
・竜(元ネタ:『ファイアーエムブレム』シリーズ)
かつて地球上の生態系に君臨していた巨大な生物。肉体能力もさることながら、非常に高い魔力の持ち主であったとも判明している。『人竜戦役』でヒトに敗れた為に絶滅したと考えられているが、世界各地で生き残りが存在するという伝説が残されている。なお、ヨッシー達スーパードラゴンのように、一部は戦乱を生き延び、独自に環境に適応した竜も実在する。

・カナス・ニーズヘッグ(元ネタ:『ファイアーエムブレム 烈火の剣』)
『古代人が見た竜』の著者。歴史研究家であり、竜の伝説に関する書物を多数残している。(なお、カナスは原作でも元学者という設定であるが、竜の研究をしていたかどうかは定かではない。)

・スーパードラゴン(元ネタ:『大乱闘スマッシュブラザーズX』)
ヨッシー達が竜の血を覚醒させて、先祖返りを起こした状態。背中に鳥型の翼を持ち、炎のブレスで攻撃する。

・マント羽根・青コウラ(元ネタ:『スーパーマリオワールド』)
マント羽根はマリオがマントマリオになるのに、青コウラはヨッシーが飛ぶのにそれぞれ必要なアイテム。

・ミュートシティ(元ネタ:『F-ZERO』シリーズ)
銀河系最大規模の都市。多くの大企業がこの街に進出している。

・スペースダイナミクス社(元ネタ:『スターフォックス』シリーズ)
アーウィンやグレートフォックスを製造した企業。

・G&R社(元ネタ:『罪と罰 地球の継承者』)
主に近代式の兵器を開発・生産している軍産複合体。本社はアメリカにある。

・メテオナックル(元ネタ:『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ)
マリオの空中前攻撃。炎をまとった拳をぶつけ、相手を地上へ叩き落とす。

・ファイアボール(元ネタ:『スーパーマリオ』シリーズ)
マリオが掌から放つ炎の弾丸。本来はファイアマリオにならなければ使えない技であった。

・キマイラ(元ネタ:『MOTHER3』)
分子工学の発達によって産み出された合成生物の総称。生物キマイラやメカキマイラなど、いくつかの亜種が存在する。

・ダークポケモン(元ネタ:『ポケモンコロシアム』)
とある犯罪組織によってココロを閉ざされ、生物兵器と化した携帯召喚獣。製造元であった組織は既に壊滅しているが、その結果製造技術が流出し、現在も取引が行われている。

・ダークミリオン(元ネタ:『F-ZERO ファルコン伝説』)
宇宙で活動する犯罪組織の一つ。ブラック・シャドーを首領とする。

・高機動小隊(元ネタ:『F-ZERO ファルコン伝説』)
より高度化する犯罪に対応すべく結成された銀河連邦の特殊部隊。ジョディやリリーが所属している。

・スターシップ(元ネタ:『メトロイド』シリーズ)
サムス・アランが所有する一人乗りの小型宇宙艇。

・ファルコン・フライヤー(元ネタ:『F-ZERO』シリーズ)
キャプテン・ファルコンの所有する宇宙艇。内部にF-ZEROマシン・ブルーファルコンが収容されている。
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SMASH BROTHERS STORY 第6話「蘇りしもの」

 国家の統治形態にも様々なタイプが存在する。
 議会政治、独裁体制、軍国主義、はたまた民主主義…。
 トリュフ大陸西側の海岸区域を包括するカメ族の国・アルケロン帝国は、その中でも典型的な軍事的国家である。
アルケロンは領土の面積こそ小さいが、屈強なカメ族の兵士を擁した大軍隊を保持しており、国王クッパ自ら率いるその軍は、度々他国に対する侵略行為を行ってきた。
特に軍備の縮小を進めているキノコ王国への出兵回数は非常に多く、その際には必ずと言っていい程王女ピーチの誘拐を実行しているが、その度にキノコ王国のマリオ率いる義勇軍によってピーチを奪還されている。
 しかし、クッパは一向にピーチの事を諦めるつもりは無いらしく、しばしばキノコとアルケロンは諍(いさか)いを起こしてきた。
クッパがそれほどまでにピーチに執着する理由は、ピーチと形式だけでも婚姻を結ぶ事によって、キノコの領土を丸ごと手中に収めようとしているからだ、という噂が国民の中でまことしやかに囁かれている。
 更に、一部ではピーチなどという若い女性を一国の主に選ぶからアルケロン軍が攻めてくるのだとして、より強い指導力と影響力を持つ新たなリーダー(すなわちキノコ大臣)を選出する必要があるのではないかという意見も上がっていた。
 その為か、協調外交を信条とし、近隣諸国の大半と和平協定を結ぶキノコ王国は、アルケロンとの間にも調停の使者を何度か派遣してきたが、アルケロン帝国はそれらを頑なに拒み続けている。
トリュフ大陸のあらゆる国家にとって、キノコと和平するという事は、軍備の縮小を意味するからである。
 そして現在、アルケロンによる他国への侵略活動はある時を境にぱたりと止んでしまった。
以来、アルケロンが表立った動きを見せる事は無く、トリュフ大陸には束の間の平穏が訪れていた。
 嵐の前の静けさ――。
 大陸の今の状況を簡潔にかつ的確に示す言葉は、まさしくこれ以外には無かった。

 アルケロン帝王クッパの居城。
 貴族にありがちな過剰な装飾などを一切排除した、無骨ではあるが機能的な構造を持った玉座の間に、主クッパの姿があった。
彼はこの日、城の周辺での人払いを済ませた上で大陸外の国からの使節を迎え入れており、その者が持ち込んできた機密文書に目を通していた。
「………」
「以上が我々ベルンの作戦内容となります」
 艶のある長い紫髪の女性の言葉に、クッパは羊皮紙から目を離し、視線を女性の方へと向けた。
「うむ…、承知した。我がアルケロンも出来得る限りの援助をさせてもらおう」
「お心遣い、感謝致します」
 女性はクッパに深く頭を下げると、すぐに退出の旨を告げた。
「それでは、私はこれにて失礼させていただきます。
侵攻の具体的な日時は後日、御報せに参りますので…」
「分かった。くれぐれも慎重に行動するよう、ゼフィール王にも伝えておくがいい」
「承知致しました。では…」
 ベルン王国からの使者は、そう言うとクッパ城を去っていった。
 後に残されたクッパは、玉座に深くもたれかかると、使者の女性より渡されたベルンの計画書を眺め、一人ごちる。
「フン…。ゼフィールの小僧め、もう侵攻の計画をここまで突き詰めておるとはな…。
準備にもう少し手間取るかと思っていたが」
 ベルン王国があるエレブ大陸には、エトルリア王国という大陸全土にその影響を及ぼす程の大国が存在し、各国に密偵を放つなどして監視の目を光らせている。
ベルンといえどもその圧力から逃れる事は容易ではなく、そう短い期間で軍備を増強出来る筈もない。
 何か、余程強力な後ろ盾でも手に入れたのか…。
 などと、クッパが構想を巡らせていると、玉座の間の中に、城の伝令役であるハックンが慌てた様子で駆け込んで来た。
「失礼します。クッパ様、例の男が謁見を求めておりますが、いかが致しましょう」
 『例の男』という単語に、彼は敏感に反応した。
「あやつがか…。分かった、通せ」
「かしこまりました」
 ハックンが部屋の外へ出ていくと、入れ替わるようにして黒衣をまとった大男が現れ、クッパの前で一礼した。
「…お久しゅうございます、亀王陛下。こうしてまたお目にかかれた事、真に光栄と存じ上げますぞ」
 恭しい態度でクッパに話しかける大男であったが、そこにはアルケロン帝国の王に対する敬意など微塵も払われていないという事は、クッパも、また本人も承知の上であった。
「ここしばらく姿を見せておらんかったが…、何処で何をしていたのだ? ガノンドロフ殿」
 それを聞いた大男の唇に笑みが浮かぶ。
「はっ。デスマ山の周辺にて、我が魔力の質を上げるべく、鍛錬に励んでおりました」
「…吾輩の前でそのような上っ面だけの敬語を用いるな」
 うんざりした様子でクッパがそう言い放つと、ガノンドロフと呼ばれた大男は一瞬目を閉じると、唇の端を僅かに釣り上げる。
「クク…、流石は亀王。その程度の事はお見通しという訳か…」
 本性を垣間見せた彼の口調には、先程までの不自然な恭しさは消え失せていた。
「して、その鍛錬とやらの出来は」
「かなりの段階までこぎつける事が出来た、と申し上げておこう。
修練を通じて、我は魔物の闘争本能を飛躍的に増大させる秘術を身に着けた。
これがあればそなたは自国の軍を運用せずとも、キノコシティを制圧する事なぞ容易く成し遂げられよう」
 ガノンドロフの発言から、クッパはつい最近になって発覚したデスマ山にまつわる謎がいくつか解明出来るように思えた。
 デスマ山周辺の山脈に住む携帯召喚獣達が、ある時期を境にして突如凶暴化した事や、その付近から非常に強い魔力の発生が観測された事などが挙げられるが、恐らくこれらの異変はガノンドロフの修行とやらに起因しているのだろう。
「では、お主もようやく準備を整えたという訳であるな…。ピーチ姫を我が手中に収める為の」
 クッパの放つ眼光が一際鋭さを増した。
「左様でございます」
 ガノンドロフも満足気な笑みを浮かべる。
「ならば、すぐさま用意を始めて貰いたい。明日行われるキノコ城でのピーチ姫の演説…、その時が絶好の機会だからな」
「亀王、その件についてだが、ピーチ姫が演説をされている間は手出しは控えて頂きたい」
 ガノンドロフのその提案は、クッパも全く予想だにしていないものであった。
 どういう事だ? 思わずそんな言葉が口を突いて出てくる。
「一国家元首が民の前に姿を現すという事は、それだけでも警備体制は念入りに敷かれると見て間違いは無い。
こちらと相手側の戦力に大きな差があるとは言え、白昼堂々と事を成すのはやはり困難であると考えられるのではないか?」
 落ち着き払った様子でガノンドロフは答える。
 臣下でもないのに一国の主にもこのように指摘出来るのが、彼が只者では無い事の証明といえるだろう。
 そして、彼の言い放った内容は正論であった。
「フン…。お主の言わんとしている事が分かってきたぞ。つまり向こうが警戒心を強めている間に手出しするのではなく、姫が無事に演説を終えられて、皆が油断している隙に行動しろと言うのだな」
「その通り」
 ガノンドロフが不敵な笑みを浮かべる。
「ならば、明日の夜、計画を実行に移すとしよう。それで構わんな?」
「それが宜しかろう。では、明日の正午に再びこちらに伺いますので、その時に最終確認を」
「分かった。用が済んだのなら去るがいい」
 無言で一礼した後、ガノンドロフは玉座の間を退出しようとクッパに背を向けるが、彼は首を傾けて視線だけをクッパに合わせて、言った。
「亀王よ、その前に一つ質問があるのだが、宜しいか」
「何だ?」
 ガノンドロフが人に物を尋ねるというのは非常に珍しいシチュエーションであるので、クッパも大いに興味をそそられた。
「先程この部屋に入る前に、ある人物の姿を目にした。
…ベルン王国のブルーニャ将軍だ。亀王、そなたはベルンと手を組んで何をしようとしているのだ」
「……」
 どのようにして答えるか、クッパは迷わざるを得なかった。
 勘のいいこの男の事だ。
実際は既に答えについては確証を得ていて、クッパにわざわざカマトトをかけたのは駄目押しで証拠を得る為であるとは容易に想像がつく。
「…お主には知る必要の無い事だ…」
 結局、三流悪役がいかにも口走りそうな台詞を吐く他、方法が思い付かなかった。
 それを聞くと、ガノンドロフは再びクッパに背を向けた。
もしかしたら、今のやり取りで彼は自分の仮説を確信へとクラスチェンジさせたのかも知れない。
「そうか…。…無礼な真似をしたな。これで失礼する」
 その言葉を最後に、ガノンドロフは玉座の間を後にした。
「(亀王め…、案の定ベルンに与していたようだな…。
あれを手に入れた後で我を出し抜く為か、それとも単純に戦に飢えておるだけか…。
何れにしても、確かに我には関係の無い事。所詮は無駄な足掻きよ…)」
 クッパと別れた後、ガノンドロフはそれを見た者全てに恐怖を抱かせるような、邪悪な笑みを浮かべているのであった。

「取り敢えず、魔物共は追っ払えたみてぇだな」
「はい。付近にも反応は感じられません」
 キノコ=ハイラル国境の山脈地帯。
 緑衣の剣士は突然現れたシゲル達を警戒しており、彼らはまず最初に自分達が敵対する存在ではない事を示す必要があった。
その為にシゲルが取った行動は、自分が手に入れた情報を剣士に差し出すという物だった。
「…って訳だから、あんた、もう安心していいぜ」
「ほ、本当に…?」
 剣士は半信半疑で問いかける。
「おう、こいつには生物反応を探知する能力があるからな」
 シゲルは笑みを浮かべつつ、ムウマの頭をぽんぽんと撫でた。
「そう…」
 彼の様子を見て、「恐れる必要はない」と判断した剣士は、ようやく構えていたコキリの剣を鞘に収める。
「…ありがとう。お陰で助かった。
それにしても驚いたわ。こんな所に人がいたなんて思いも寄らなかったから…」
 剣士の言葉に、ヘラクロスが呆れた様子で呟く。
「いや、驚かされたのはこっちの方だよ。こんな岩山へのこのこやって来る人なんて、よっぽどの命知らずだと思ったけど、まさか君みたいな女の子だったなんてね。おまけにそんな軽装で…、下手すりゃどんな危険な目に会ってたか」
「おいおい、そいつはお前の言える台詞じゃねぇぞ…」
 ヘラクロスの指摘を受け、頬を赤らめて俯くその少女の姿を見て、シゲルがすかさず彼女を援護した。
ヘラクロスにしても、亜人型のポケモンであるという点を除けばやっている事は少女と何ら変わりない。
「なっ、何でよー!? 私は毎日鍛えて…!」
 シゲルに反論しようとするヘラクロスを遮って、リザードンが契約主に話しかけた。
「シゲル。一先ず、それぞれ話し合うのはこの山を降りてからにしましょう。
またさっきの魔物が襲ってこないとも限りません」
 彼女の提案に、シゲルも賛同した。
「そうだな、その方がいいかも知れん。…あんたもそれで構わんな?」
「ええ、是非ご一緒させて」
 緑衣の少女剣士はサリアと名乗り、改めてシゲル達に同行する事を申し出た。

「所でサリア。あんた、この山を越えようとしてたって事は、キノコ王国へ向かおうとしてたんだよな?」
 皆して下山道を歩いている時にシゲルが問うたので、サリアは静かに頷く。
「何でまた」
「…人を捜してるの。その人がキノコ王国に向かうって聞いたから、急いで山越えしようと思ってね。船賃も持ってなかったし」
「何でキノコへ行くって判ったの?」
 ヘラクロスが彼女の方を振り向いた。
 サリアが探している人物というのは元々彼女と同じ村に住む幼馴染であったのだが、七年前のある日、その者は村を出(い)で、ハイラル王宮騎士団の見習いとして入団したという話を耳にした。
 彼女の出自であるコキリ族というのは非常に閉鎖的な社会を営んでおり、自分達の村がある森を出る事は殆ど無いという。
そんな中で、サリアは剣の修行をし、様々な書物を通じて外界の知識を蓄え、先月、遂に故郷を出る事に成功した。
後に何とかハイラル城の城下町に到着するが、現地の者の話によれば尋ね人は王女ゼルダを警護する近衛騎士の一員として、既に国を後にしたというので、彼女も慌ててその後を追い、国境間の山脈を移動している途中に、シゲル達に遭遇したのである。
 サリアから聞いた話を整理すると、大よそこんな内容であった。
「へぇ…。随分苦労してんだな。まだ若いのに」
「ま、まぁね…」
 シゲルが感心したように言ったのを、サリアは何処か複雑な表情を浮かべて返事した。
「だったら、俺達を一緒に連れて行く気はねぇか?
あんたのその、尋ね人とやらに無事会えるまでは付き合ってやれるぜ」
「え?」
 いきなりの提案に、驚いてシゲルの方を見つめるサリア。
会ったばかりなので詳しくは知らないが、彼らもあんな山中にいた以上何らかの重大な任務を帯びていると考えられる。
「そりゃ、一緒に来てくれれば心強いけど、本当にいいの?」
 シゲルの都合を案じるサリアに、彼は気障な笑みを浮かべて答える。
「俺のは別に急ぎの用じゃねぇしな。
それに、女の子を一人置き去りにするってぇのも男の流儀に反するだろ?」
「男の流儀っていうか、単に軟派なだけじゃん!」
「うるせっ。お前らも異論は無いな」
 ヘラクロスのツッコミをものともせず、シゲルは手持ちポケモン達を見渡した。
「シゲルがそれを望むというなら、私に異存はありません」
 もっとも、シゲルに絶対的な忠誠を誓うリザードンには聞くまでも無いし、ヘラクロスの返事も大方予想は付く。
「私も賛成。旅は大人数の方が面白いしね」
 やはり想定通りの答えであった。
「ムウマ、お前はどうだ」
 シゲルが手持ちの最後の一人に問いかけるが、直に彼女の様子がどこかおかしい事に気付かされた。
元々小柄な体を更に縮こまらせて、悪寒を感じているように小刻みに震えている。
そして、シゲルと眼が合った瞬間、彼女は震える唇を開いた。
「…だ、駄目です……っ!」

「…それにしても、知らぬ間にこの国も物騒になったな。
俺の聞いた話では、キノコ王国じゃさっきの山賊共のような奴らは、うろついていないと言われていたが」
 スーパーキノコを完食してから、リンクが残念そうに呟いた。
彼は、買い物を終えて城に戻るというキノピコと別れた後、ルイージからキノコ王国の現状を聞き出してみた。
だがその内容たるや、今まで自分が抱いていたイメージとは大分異なっていたので、驚きを隠せずにいるのだった。
 何しろ、市場に山賊達が出現した今回の事件の数日前に、キノコシティではトゲゾー団による強盗事件が発生している程、治安が悪くなっているのだ。
「…そう言われるとキノコの民として、何だか申し訳ない気持ちになるよ」
 ルイージは脱帽して、頭を掻きながら言った。
「これ以上キノコ王国のイメージが悪くならないように、僕ら国民も強くならなくちゃね」
「あんた、自警団か何かに入ってるのか?」
 瓶入りのロンロン牛乳を飲み干した後、リンクが訊いた。
 その質問にルイージは少し考えるような仕草をしてから答える。
「うん…。そういう訳じゃないんだけど、実際にはそれに近いかな…。
兄がよくそんな事をやってて、僕も付き合わされたりしてるんでね」
「へぇ…。それは変わった兄貴だな…」
 正直なリンクの感想にルイージも「やっぱりそう思うか」と苦笑すると、それに釣られてリンクの顔にも笑みが浮かぶ。
 異国の民とのおしゃべりは聞かされる内容全てが新鮮で、中々楽しい物でもあったが、ふと広場にある時計に目を遣ると、時刻は既に正午に近付いている。
いつまでもこの場に留まってはいられない事を悟ったリンクは、ルイージに別れを言って、ハイラルの騎士団が滞在するピーチ城へと戻っていった。

「…そ、それ以上進んではいけません…!」
「何!」
 ムウマの言葉に、サリアを除く全員に緊張が走る。彼女は何かの存在を感じ取っているのだ。
「ここの付近一帯に…、何かの反応があります…!」
 ムウマが発した『反応』という言葉から、サリアは先程のシゲルの話を思い出していた。彼女には、『生体反応を探知する能力がある』と。
「…って、どうせさっきの下級魔物のやつでしょ? そんなに気にする事無いよ」
 ヘラクロスの楽観的な指摘を、ムウマは頭(かぶり)を振って遮る。
「…いえ、前の物とは明らかに異質な気配がします…。
…それと、反応源の数が急激に増加しています…!」
「それは、腑に落ちないわね」
 そう言って、リザードンは唇を噛みしめた。
 これがもし通常の魔物の場合なら、反応の度合は緩やかに上昇していくのが常であるからだ。
 無論、例外は存在する。
瞬間移動やテレポートの能力を持つ上級魔物や、一部の下級魔物がそれに当てはまるのだが、そうしたタイプの魔物は基本的には敵に発見された時に、逃亡する際に使用するだけで、わざわざ敵の近くに移動してくる者などは皆無なのである。
だが、現在まさにそうした事態が起こってしまっているのだ。
「……あっ……!!」
 ムウマが傍にいる者にしか聞き取れない程の小さな悲鳴を上げるので、一同は何事かと思い辺りを見渡してみるが、その理由はすぐに彼らにも理解出来た。
「なっ、何だ、こいつらは…?」
 焦燥感のあまり冷や汗を浮かべながらシゲルが一言漏らした。
 いつの間にか、彼らの周囲は球形の体に手足を持ち、ゴーグル付きのマスクを被っているという、およそ人間とはかけ離れたスタイルをした謎の生物によって取り囲まれていた。
しかも全員、黒く細長い筒状の物体を携えている。
「あれは…、鉄砲!?」
 サリアが口に手を当てて叫んだ。
銃についての知識は、恐らく本で読んで手に入れたのだろう。
「馬鹿な! こんな近くでこれ程の数がうろちょろしてたら、俺達にだって気配が掴める筈だろ!?」
「…それは無理だと思います…。この人達、さっきまで反応が全然しなかった位置から突然出現していますから…」
「何だと…。それじゃ、こいつらは虚空からいきなり出てきやがったってのか…!?」
 信じられないといった様子でシゲルが吐き捨てた。
「げへへっ! 中々核心を突いた推測だな!」
 下品で野太い声が聞こえてきたかと思うと、シゲル達を取り囲む謎の軍勢を押し退けるようにして、彼ら以上の巨体を持つ男が姿を現した。
外見は軍団のそれと酷似しているが、他の者はコスチュームが赤いのに対して、黒い服を着ている事から、この軍団の指揮官的存在なのだろうと考えられる。
「さっきの台詞…、どういう意味だ?」
 シゲルの質問を、男は鼻で笑い飛ばした。
「地の底より蘇りし我らに歯向かう気か。…自分の立場が分かっているのか」
 男が軽く右手を振ると、謎の軍勢は一斉に銃をシゲル達に向けた。
「大人しく投降するんだな。そうすりゃ、命だけは保証してやる」
 あからさまに信用ならない言葉であったが、かと言って、彼らだけでこの軍勢を相手にするのは流石に無理がある。
「ちっ…、分かったよ!」
 苛立ちを押さえながら叫ぶと、シゲルは腰に下げたモンスターボールを取り出し、手持ちのポケモン達をその中に戻した。
「げへっ! 賢明な判断だったな。こいつらを連れて行け!」
 黒服の男は、そう言って再び右手を上げると、軍団員達も武装を解除し、シゲルとサリアを拘束し始めた。
 どうやら、抵抗しなければ自分達のアジトへ連れ去るつもりだったらしい。
「シゲル…」
「…へっ、大丈夫だ。俺はまだ諦めた訳じゃねぇ。奴らの隙を見つけて、必ず逃げおおせるぞ。あんたが捜してる人に会う為にな」
 心配そうに寄り添うサリアを元気付けるかのように、シゲルは努めてポジティブに振る舞った。
「…うん」
 そんな彼の様子を見て、サリアもまた生き延びる決意を固めていた。

「喜べ、ルイージ! ピーチ城から直々に仕事の依頼が来たぞ!」
 その日の夜、PIPE HOUSEに帰宅したマリオが弟に向けて放った第一声である。
「へぇ、裏庭の噴水でも修理するの?」
 夕食の準備中だったルイージは、台所から顔を覗かせながら言った。
「んな訳ねぇだろ。明日はピーチ姫が演説をなさる予定だから、その間ボディガードをするんだよ」
「それ、僕もやるの?」
 どうやら料理が完成したらしく、ルイージがスープパスタの入った二人分の皿を持って、台所から現れた。
「勿論だ」
 マリオは大きく二、三度頷いた。彼によると、二人でピーチの護衛の仕事を完遂出来れば、一ヶ月分程度の稼ぎになるという。
「ほんとに? もしそうなったら凄いけど…」
「何だよ、何か引っかかる事でもあるのか」
 マリオがスープパスタをかき込みながら尋ねてきたので、ルイージは最近になって軍事活動が全くの音沙汰無しとなっているアルケロン帝国の事を話した。
 ピーチが公の前に姿を見せるこの機会を、果たしてクッパは逃すだろうか。
「それに、今ピーチ城にはハイラル聖王国のゼルダ姫様が訪問されてるでしょ? 皇帝がピーチ姫とゼルダ姫をお二人共さらっていったりしたら、どんな騒ぎになるか…」
 ルイージがげんなりした様子で予想し得る最悪の事態を考え始めたが、マリオは寸での所でそれを遮った。
「…まだ起こってもいない事を一々不安がっても仕方ねぇだろ?
もし本当にアルケロン軍が攻めてきたとしたら、俺達が追っ払えば済む話さ」
 そして、マリオは実際にそうやってアルケロン帝国と戦ってきたのだ。
「…確かに、その通りだね…」
 兄のいかにもラテン的な態度に半分元気付けられ、半分呆れさせられたルイージは、窓の外の景色から見えるピーチ城を眺めていた。

 翌朝、マリオブラザーズは既にピーチ城内の一室で待機しており、ピーチの執事の一人であるキノピオから、その日に行われる演説の概要を聞かされていた。
 キノピオによると、ピーチは昨晩ゼルダと二国間の和平協定を結ぶ事に成功し、ハイラルとも正式に国交が開始されるようになったのだという。
しかも、今回の調停はそれ以前のようなキノコ大臣による根回しなどは一切無く、ピーチが自らの力で他国の元首との交渉にあたった初めてのケースなのである。
 勿論、それは今回の物が同じ性別・年齢に当たる人物が相手だったからこそ上手くいったのは言うまでもないが、その点を差し引いても、国民にとってはピーチが国の指導者として一歩成長した事を示す、喜ばしいニュースである事に変わりは無く、マリオブラザーズにとってもそれは同様であった。
「このまま行けば、ピーチ姫様が女王に即位なさる日も、そう遠くないかもしれませんねぇ」
 声の主は、マリオブラザーズでもなければキノピオでも無い、第三者の物だった。
「あれ、ヨッシーじゃねぇか」
 ブーツを履いた緑色の恐竜族の姿を見て、マリオが驚く。
彼が依頼主であるキノコ大臣から話を伺っていた時に、ヨッシーの名前は出て来なかったからだ。
「ヨッシーもピーチ姫の護衛を引き受けたの?」
「ええ、マリオさん達もいらっしゃると聞いたので」
 どうやら、ヨッシーは彼らより後に依頼を持ち込まれたらしい。
「では、ヨッシーさんもこちらへ。所定位置についてお話ししておきます」
「はいはい」
 キノピオに促され、一足遅く到着したヨッシーは個別に自分の待機場所に関するレクチャーを受ける事になった。
 今回の依頼内容は重要人物の警護が主な任務となるが、その他にも演説の間、人々の注目が一斉にピーチ一人に集まる隙を狙って場内に侵入しようとする盗人なども阻止しなければならない。
その為には、自分がどのエリアを担当するのかを十分に把握している必要があるので、ヨッシーもキノピオも念入りに城の見取図をみながら、打ち合わせを進めていた。
「兄さん、仕事に入る前に一応、キノコ大臣にご挨拶しておいた方がいいかな」
「確かにそうだが、俺達だけじゃ大臣には謁見出来ねぇからな…。キノピオ、頼めるか?」
 マリオがキノピオの方を向いて言った。
「分かりました。ヨッシーさんへの説明が終わり次第、皆さんを案内します」

 その数分後には、マリオ達はキノピオに連れられて大臣の控える部屋の前へやってきていた。
まずはキノピオが部屋の戸をノックする。
「…大臣、お忙しい所申し訳ありません。
マリオさん、ルイージさん、ヨッシーさんがいらっしゃいました」
「分かった。入ってきてもらえ」
 聞こえてきたのはキノコ大臣の声であった。
「失礼致します」
 キノピオを先頭として、四人は大臣の部屋へと入室した。
 大臣のデスクの上にはおびただしい数の書類や書簡が積み上げられている。
恐らくその殆どはハイラル聖王国との外交政策について記されているのだろう。
「おぉ、お三方。この度のご協力、真に感謝致しますぞ」
「いえ、こちらこそ。いつもお世話になっております」
 三人を代表して、ルイージが言った。
「いやいや、我々の方こそお礼申し上げたい所です。今日(こんにち)となっては、いつ襲い来るやも知れぬアルケロンの軍勢に対抗出来るのはそなた達だけですからな」
 キノコ王国は現在、軍事力の保持を放棄しているので、仮にアルケロン軍が攻めてきたとしても、実質的には対処する事が出来ないのだ。
それが可能なのは、マリオのような義勇兵や、外地から雇われた傭兵などであった。
特にマリオ達は、城や重要人物の警護といった任務を、王室からの正式な物として何度も請け負っている。
「お任せ下さい。カメ族の奴らなんぞに、姫様へ手出しはさせません」
「僕らも出来るだけの事はさせていただきます」
「はは。それは頼もしき限りですな」
 マリオとヨッシーの発言に、キノコ大臣は声を出して笑みを浮かべた。
その後、彼らが数分の間、大臣と近況を語り合っていると、再びドアを敲(たた)く音が聞こえてくる。
「大臣、入っても宜しいかしら?」
 今度は若い女性の声だ。
「おや、これはピーチ様。どうぞお入り下され」
「ありがとう」
 そう言うと、二人の女性が室内へと入って来た。
 うち一人は、桃色のドレスと、たっぷりした金髪が特徴的なキノコ王国の姫・ピーチである。
「姫様、いかがなされましたかな」
「マリオ達に会いに来たのよ。私達の護衛をしてくれるって聞いたから、演説の前に一度会っておきたくなって」
「いやはや、これは申し訳ありませんねぇ。本来なら我々の方から出向くべき所を、姫様に煩わせてしまうとは…」
 国家元首を目の前にしたマリオ達が慌てて彼女の前にひざまずく中で、ヨッシーが詫びを入れた。
「気を遣わないで。どのみち彼女を紹介しに行くつもりだったから」
 ピーチは傍らにいる女性を見やった。
その女性は白を基調としたドレスをまとい、頭にはティアラを冠した、ピーチと同年代か少し勝ると思われる人物なのだが、彼女の正体が何なのか、マリオ達にも大方の予想が付く。
「こちらはハイラル聖王国のゼルダ王女よ」
 ピーチの紹介を受けて、その女性はマリオ達に向かって会釈した。
「初めまして、ゼルダと申します」
「い、いえ、こちらこそ、お初にお目にかかります」
 一国の支配者という肩書きからは想像も付かない程の腰の低さに、マリオも委縮する。
 彼らはごく簡単な自己紹介を終えた後、互いの国の内情について話し合っていたのだが、ピーチがマリオの事を、「傭兵としても腕が立つ配管工」と紹介していたとあって、自然と話題はキノコ・ハイラル両国での名うての傭兵に関する物へと移っていった。
「そう言えば、ハイラルの王宮騎士団には凄腕の剣使いがいるって聞いたことがあるな…。
なんでも、伝説の勇者の血を引く人物だとか…」
 ルイージがそう呟くと、ゼルダが彼の方を振り向いた。
「勇者と関係があるかは分かりませんが、剣術に優れた者なら確かにおりますわ」
「あら、その人ってもしかしてさっき中庭にいた人の事?」
 反応を返したのはピーチであった。
彼女もまた、城の中庭で一人剣の修行に励むリンクの姿を目にしていたのだ。
「ええ。そうだと思います」
「……」
 二人の姫君が会話を弾ませている頃、マリオは独り黙って思案していた。
と言うのも、剣術に秀で、修行をよく行っていたハイラル出身の者というキーワードに、何処か引っかかるものを感じていたからだ。
「おや、マリオさん、どうかなさいましたか?」
「ん? ああ、ちょっとな…」
 そんなマリオを見かねて、ヨッシーが尋ねるも、彼からは芳しい返事は得られなかった。
 城の伝令役が、演説の準備が整ったのを伝えに来たのがこのすぐ後だったというのは、タイミング的には最善だったのかも知れない。

『我が国とハイラル聖王国とは、この度、ようやく正式な国交を結ぶ事に成功いたしました。思い起こせば、この両国の関係は建国以来、良好と言える物ではなく………』
 マリオとルイージが待機している位置から少し離れた場所にいる筈のピーチの声は、二人の耳にはっきりと聞こえてくる。
 キノピオから事前に聞いた話によると、この辺り一帯にはピーチの声が聴衆によく聞こえるようにと風属性の魔道による結界を施しているのだという。
「兄さん、そっちの様子はどう?」
 ルイージはマリオの所へ近付いて質問してみたが、返って来たのは、
「おい、今いい所なんだから、静かにしてろ」
 といった物であった。
彼の視線は先程からピーチに釘付けの状態となっており、この様では自分の成すべき事を分かっているのかどうかも非常に怪しい。
「…まったく」
 ルイージは溜息をつきながら担当場所へと戻った。
この後も彼らは城の監視とピーチの警護を続けていたが、恐れていたアルケロン軍による襲撃は、遂に起こる事もなく、キノコ王国の全国民に向けた演説はつつがなく進行したのであった。
「いやぁ、姫様の演説凄かったねぇ。これからのキノコが、他国とどうやって今の政策を貫くのか説くくだりなんか、聞き応えあったよね」
 演説に使用された舞台を片付けている途中、ルイージは傍らにいるマリオを振り返った。
「へぇ、姫様はそんな事おっしゃってたのか」
「えっ!?」
 あっけらかんとした表情で妙な事を言い出す兄を前に、彼は一瞬硬直してしまう。
「兄さん…。だったら何の為に、さっき姫様をずっと見つめてたの?」
「いや、姫様のお姿を拝見するのに夢中で、何ておっしゃってたのかはほとんど覚えてねぇんだ」
「あ、そう…」
 半ば呆れた様子で作業に戻ろうとするルイージであったが、その途中、彼は思いもよらぬ光景に出くわした。
「おい! 一体どうしたっていうんだ!?」
 声の主はヨッシーであった。ピーチの演説を聴く為に城の前の庭園へとやってきた同族達に向かって、しきりに大声で呼びかけている。
「どうかしたのか?」
 マリオブラザーズは作業を中断してヨッシーの元へ駆け寄った。
「あ、マリオさん、ルイージさん。実は彼らの様子がおかしいんですよ。
お二人からも何か言っていただけませんか」
「んー…」
 ヨッシーに言われ、マリオ達はその場から微動だにしない色とりどりのスーパードラゴンの群れに視線を向けた。
見ると、彼らは全員虚ろな目をしていて、まるで生気が感じられない。
「………」
「な、何だか不気味だなぁ…」
 ヨッシーに呼び掛けられても一言も発しないその様に、ルイージも恐怖を覚える。
「…ったく。こんくれぇの事で一々大袈裟な奴だな…。おいお前ら、具合でも悪いのか?」
 そう言って、マリオが比較的近い位置にいる青ヨッシーの肩に手をかけようとした、次の瞬間。
「ガァァァァァァァァッ!!」
 そのヨッシーが野獣のような咆哮を上げてマリオに襲いかかってきた。
「何!?」
 全く予想だにしなかった展開に驚かされつつも、マリオは咄嗟にガードの構えを繰り出し、何とか青ヨッシーの攻撃を凌ぎ切る。
「おい、何しやがる!」
「キシャーッッ!」
 マリオの抗議も虚しく、暴徒と化したヨッシー達が次々と彼に攻撃を仕掛けてきた。
「うわっ!」
「に、兄さん!」
 慌てて兄の元へ駆けつけようとするルイージであったが、彼にもまた、凶暴化したヨッシー達が背後からとびかかって来る。
「ふぅ~んっ!」
 ルイージのピンチを救ったのは、彼らと共にピーチの護衛についていた緑ヨッシーであった。
尻尾を鞭のように振り回す事で、凶暴化ヨッシー達を退けたのだ。
「あ…、ありがとうヨッシー。助かったよ」
 ルイージがこの緑色のヨッシーのみが正気を保っている事に気付いたのは、彼に一言お礼を述べた後だった。
「所で、君は大丈夫なのかい?」
「ええ。僕は至って正常ですよ。それよりマリオさんは…」
 彼らが揃ってマリオのいる方向を見遣る時には、マリオが既に数匹の凶暴化ヨッシーにパンチを浴びせ、地に沈めている光景が繰り広げられていた。
「に、兄さん…、一応相手が相手なんだから少しは手加減しないと…」
「何言ってやがる」
 マリオは服に付いた汚れを手で払い落しながら呟いた。
「こいつら集団で襲ってくるんだぜ? 手を抜こうもんならこっちがやられる」
「そりゃそうだろうけど…」
 ルイージは溜息をつきながら思う。
 いくら一対多数の状況だとはいえ、すぐ傍にヨッシーがいる中で彼の仲間を全力で殴り飛ばすというのはやはり思慮に欠けた行為ではなかろうかと。
 だが、幸いな事に、当のヨッシーは至って冷静であった。
「あっ、お二人共、奴らが城下町の方へ逃げて行きますよ!」
「くそっ、逃げる気か!?」
「いえ、恐らく食料を漁(あさ)りに行ったんでしょう。例え正気を失ったとしても、我々スーパードラゴンに連綿と受け継がれてきた習慣はそう簡単には消え去りませんよ」
「よし、だったら俺とヨッシーで街の連中を避難させる。ルイージ、お前は避難経路を確保するんだ」
 得意げに語るヨッシーを尻目に、マリオは弟に指示を出すと、ヨッシーの背中に跨って城下町へと下っていく凶暴化ヨッシー達を追いかけて行った。

「わ、何だ…、これは…」
 ルイージはじきに城下町からやって来るであろう住人達を待機させるのには、ピーチ城前の庭園辺りが最も安全であろうと考えていた。
 だが、いざ下見に行ってみると、そこでもやはり凶暴化したヨッシー達が餌を求めて暴れ回っており、ハイラルの兵士がそれらを相手に戦っているという状況だった。
この有様ではとても住人の安全は確保出来ないと思われる。
「諦めて別の場所を探すべきかな…」
 そう考えて一旦この場を去ろうとするルイージを、何者かが呼び止めた。
彼が声のした方を振り返ると、そこには緑の服を着て、剣と盾で武装した勇者の姿があった。
「リンク!」
「ルイージ、無事だったか。ここは危険だから、あんたも早く城の地下へ退避してくれ」
 リンクの話によると、つい先程城下町とは正反対の方向にあるピーチ城の方角も凶暴化ヨッシー達の襲撃を受けており、現在ハイラル近衛騎士団が何とか城内への侵入を食い止めている所らしい。
また、城内にいた者達はピーチの先導のもと、城の地下にあるシェルターに避難済みであるという。
「(そうか、ここに来たヨッシー達は城の食糧庫を狙ってきたって訳か……)」
 説明を受けたルイージはヨッシーの言葉を手掛かりにして、そう結論付けた。
「いや、僕は城下町の方へ向かうよ。あの恐竜達はそっち側へも大勢なだれ込んで行ったんだ」
「何。本当か!?」
 リンクの表情が強張る。
「あ、でも心配無いよ。そっちへはもう兄が向かってるから。
僕は城下町の人達をこっちへ案内してくる」
「…分かった。俺もここでの戦闘が片付いたら、すぐに街の方へ向かえるよう、騎士団長に指示を仰いでみる。…マリオにもその旨を伝えて置いてくれ」
「うん。…それじゃ、後は頼むよ」
 それだけ言うと、ルイージは百八十度方向転換して元来た道を走り去っていった。
 ――焦りがそうさせたのか。
彼は先日知り合ったばかりの男が、いまだ教えた筈の無い兄の名前を知っていた事に最後まで気付く事は無かったのだった。

 その頃、キノコシティの城下町では、その強靭なる胃袋を満たす為にパン屋や青果店などを襲撃する凶暴化ヨッシー達を相手に、マリオはファイアボール、ヨッシーは炎のブレスで応戦していた。
 個々の戦力で言えば明らかにマリオ達の方が勝るが、さしもの彼らも多勢に無勢という戦況の中ではやはり苦戦を強いられてしまう。
しかも、今回は街中で戦っているので、あまり派手な攻撃を繰り出せば周囲にどのような被害が及ぶか分からない為に、手加減しながら戦わねばならないという、大変厳しいハンデを背負わされているのだ。
「畜生、きりがねぇな…」
 カラフルな体表を持つ恐竜達に囲まれたまま、マリオが悪態をついた。
「しかしマリオさん、向こうもかなり数が少なくなっていますよ、あと少し粘れば勝てそうです!」
 マリオを元気付けようとする意図か、ヨッシーは努めて明るい声をかける。
「…へっ、だと良いんだがな」
 右手にファイアボールのエネルギーを集中させて、マリオは敵陣に突入しようと一歩踏み込む。
 だが、次の瞬間、自体は思わぬ方向へと転び始める。
「ヨッシィィィィィィィィィィィィィ!!」
 天空目掛け、まさしく竜の如く凶暴化ヨッシー達が咆哮すると、彼らの背中には光り輝く翼が生え始める。
 竜の翼と言えば、それこそリザードンの背中にある、コウモリのそれに似た形をした物がよく知られているが、ヨッシーに生えているのは、あたかも鳥類を連想させる白く大きな翼であった。
 更に太古の伝承にある『竜』に近い姿となった凶暴化ヨッシー達は、それを使い空中へ舞い上がると、地上目掛けて炎のブレスを放つ。
最早『人畜無害で温厚な生き物』というイメージを完全に打ち破り、好き勝手に暴れ回るスーパードラゴンの様を、後に残されたマリオとヨッシーが成す術もなく眺めていると、何処からか驚きと恐れに満ちた何者かの震えた声が空しく響き渡った。
「り、竜だ……! 伝説の竜が……、蘇ったんだ!!」

<第6話 用語集>
・ベルン王国(元ネタ:『ファイアーエムブレム 封印の剣』)
エレブ大陸の東に位置する軍事大国。質実剛健な気風をよしとする。統治者はゼフィール。

・エレブ大陸(元ネタ:『ファイアーエムブレム 封印の剣』)
リキア同盟、ベルン王国、エトルリア王国などが存在する大陸。かつての『人竜戦役』の舞台であると伝えられる。

・エトルリア王国(元ネタ:『ファイアーエムブレム 封印の剣』)
エレブ大陸の西に位置する文化大国。典型的な貴族社会が構成されている。統治者はモルドレッド。

・ハックン(元ネタ:『スーパーマリオUSA』)
黒子のような装束を身にまとった、夢の世界の小悪魔。元々は『夢工場ドキドキパニック』に登場した。

・コキリ族(元ネタ:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』)
コキリの森の奥深くに住まう、森の民。肉体の成長が極端に遅く、コキリの村には子どもの姿しか見られない。

SMASH BROTHERS STORY 第5話「緑の縁(えにし)」

(*これ以降、本編の一部に擬人化要素が入ります。嫌いな方、苦手な方は十分にご注意願います。)

 キノコ=ハイラル間の国境は、『壁』とも称される高く険しい山脈がそびえ立っている事で有名だが、その中でも一際大きく、見る者を圧倒させる程の威圧感を備えているのが、デスマ山である。
標高二万メートルと言われるこの山は、道がかなり荒れている上に周囲を同じような岩山に囲まれている為、登山はおろか、近付こうとする者さえ現れない。
 なので、デスマ山近辺の一帯は、長い間どういった生態系が存在しているのか明らかにされてこなかった。
 彼がフィールドワークの為に単身乗り込んできたのは、そんな危険をはらんだ地帯であった。

 雲の切れ目から差し込む朝日を背にして、一人の男が小高い丘の上に立っている。
 男といっても、彼は外見からしても非常に若いので、この場合は少年と呼んでも差し支えは無いと思われる。
ヤマアラシのように逆立った髪型が特徴的だ。
腰には数個の赤と白に塗り分けられた球状の物体、すなわちモンスターボールを提げている所から携帯獣召喚士(ポケモントレーナー)である事は明白であった。
 少年はしばらくの間、丘に立ったまま空を眺めていたが、やがてこちらの方向に飛んでくる何かを発見した。
「来たか」
 欠伸を噛み殺しながら少年が呟くと、その飛行物体の近くへと駆け寄っていった。
「シゲル。ただいま戻りました」
 そう言って少年の近くへ飛来してきたのは、黒い衣装を身にまとい、背中には巨大なコウモリのような翼と、先端に松明の如く煌々と炎を燃やす尻尾を持った女性であった。
彼女が着ている服は生身の部分から直接生えている翼や尻尾を動かす時に干渉しないよう、背中と腰の後ろの部分が大きく開いた不自然な構造をしている。
「おう、山の様子はどうだ?」
 シゲル少年は翼の生えた女性に、ぶっきらぼうな態度で問うた。
「特に異常と呼べる物は確認出来ませんでした。それに、この辺りの山には元々携帯召喚獣はあまりいないらしく、反応は殆ど見られません」
 女性の返答は淡々としたものであった。
「ん~、そうか…」
 それを聞いたシゲルは唸った。
彼が事前に入手しておいた情報によれば、ここデスマ山を中心に、高いレベルの魔力が観測されたと言われていたからだ。
 もし本当に、この山脈に高エネルギーの魔力が存在していれば、そこには自ずと携帯召喚獣、すなわちポケモン達がやってくる筈なのだ。
「分かった、とにかくご苦労さん。しばらく休んでな」
 女性をそう言って労(ねぎら)うと、シゲルは再び丘の上に登って空を眺め始めた。
「そう言えば、他の二人が遅いですね。私が様子を見てきましょうか」
 しばらくしてから、今度は女性の方がシゲルに話しかけてきた。
「いや、リザードン。その必要はねぇよ」
 シゲルは自分の手持ちポケモンの方を振り返った。
その時点で、リザードンの女性にも契約主の言わんとする事は理解出来ていた。
先程彼女と同じように、空中からこちらに向かって降りてくる二つの影が見えていたからだ。
 その正体は、シゲルが偵察の為に山の周辺に送り込んだポケモン達である。
 シゲルはリザードンを引き連れて召喚獣達を迎えに行った。
「おーっす! ばっちり偵察してきたよ!」
「…只今戻りました…」
 そう言ってシゲルの元にやって来たポケモン達は、何れも人間の姿をしており、格闘家風の出で立ちをしたヘラクロスと、ローブを身にまとったムウマの二体であった。
 ちなみに、どちらも性別はメスである。
「おう、その様子じゃ、大した収穫は無かったようだな」
「す、すみません……」
 シゲルの言葉に、ムウマは申し訳無さそうに頭を下げた。
「むぅちゃんが謝ることないよ。第一こんな岩ばっかりの所に生き物なんて誰も住みたがらないんじゃないの? あ、岩タイプのポケモンは別だけど」
 ヘラクロスの話は、偵察行動の結果があまり良くなかったという事を暗示していた。
 生物反応がほとんど見られないというのも、リザードンの報告と一致している。
「シゲル、恐らくこれ以上調査を続けても結果は変わりないと考えられます。一度撤退して、オーキド博士に状況を報告すべきではないでしょうか」
 リザードンの推論はシゲルも頷かざるを得ない妥当な物であった。
「ついでに、前情報はガセネタだったって事も伝えとかないとね」
「そ、そんな言い方…、あんまりです…」
 ストレートなヘラクロスの物言いに、ムウマは弱々しいながらもツッコミを入れる他なかった。
 オーキド・ユキナリ博士と言えば、携帯召喚獣研究の学会ではまず知らぬ者はいない権威的存在であるし、何より彼は契約主シゲルの実の祖父であるのだ。
「いや、ヘラクロスの言う通りだ。あの爺さん、孫だからって人をパシリ扱いしやがって…。よし、一先ず調査は止めだ。お前ら、下山して街に戻るぞ!」
「……はい……」
「おっす! 了解だよ」
「承知しました」
 召喚士の呼びかけに、亜人型のポケモン達は、三者三様のリアクションで応答した。

 デスマ山の麓を離れ、シゲルは三体のポケモンを引き連れて山脈を降りている所だ。
 岩肌をむき出しにした急勾配の山道は登る時も苦労したが、帰りは帰りで、石ころにつまづいてこけたりでもしたらただでは済まないので、十分に注意を払う必要がある。
「おい、自分の足下よく見とけよ」
 シゲルが注意を促したのは、彼の手持ちポケモンの中でも一際そそっかしい性格のヘラクロスである。
「そんな事言われなくても分かってるよ~!」
 注意を受けた当の本人はそう憤慨するが、それは明らかにさっきまで注意が散漫であった事の裏返しであった。
「ヘラクロス、ちゃんと前を見て歩きなさい」
「あっ! リザ姉まで、ひどい!」
「何言ってんだか…。こっちは忠告してやってんのに」
 三人の間で他愛もないやり取りが行われようとしていた時に、後に残されたムウマが突如何かに驚いて叫んだ。
「あ、待って下さい…!」
「どうした?」
 シゲル達は一斉にムウマの方を振り向く。
 彼らは、このムウマを連れて旅をしている間、何度か同じような経験をした事があった。
 ゴーストタイプである彼女は、魔力や生体反応などを感知する能力に長けている。
 世界各地のポケモンの情報を記録した、全国図鑑の完成を目指すシゲルにとって、その能力は目当てのポケモンを見付け出すのに大変重宝していた。
 よって、この時のムウマの言葉には、全員が黙って耳を傾けるのが暗黙の了解となっているのだ。
「この区域の周辺に…、複数の魔物の気配があります…!」
「魔物? ポケモンかな?」
 ヘラクロスの問いに、ムウマは首を横に振った。
「いえ…、そうではないと思います…。それに、近くにはヒトの生体反応もあります…!」
「人だと…!? まさか魔物に襲われてんじゃねぇだろな…」
 シゲルの脳裏に不安がよぎる。
「確かめに行きますか?」
 リザードンに言われるまでもなく、彼は反応のある場所へ行くつもりであった。
「無論だ。ムウマ、反応の元は特定出来るか?」
 よなきポケモンは無言で頷く。
「よし、だったらすぐ向かうとするか」

 同じ頃、キノコ王国の首都・キノコシティにあるピーチ城の内部では、じきこちらへやってくるというハイラル聖王国のゼルダ姫を迎え入れる為の準備が、最終段階へと近付いていた。
そんな中、城の主である筈の姫君ピーチは未だに自分の寝室の中で眠りに就いている。
「ピーチ様、入りますぞ」
 ドアをノックして部屋の中に入って来たのは、ピーチの執事を勤めるキノじいであった。
彼はピーチが寝そべっている天蓋付きのベッドまで駆け寄ると、主を揺さぶり起こす。
「姫様、起きて下され。最早時間がありませんぞ」
「ぅ…、うん……?」
 キノじいに促され、ピーチはようやく目を開いた。
「あ、おはよう、キノじい」
「おはようございます。お目覚めの所申し訳ありませんが、ハイラル聖王国からゼルダ君(ぎみ)がもうすぐ御出でになりますので、姫様も直ちにご用意を。別室に担当の者を控えさせております」
「あら、もうそんな時間?」
 そう言って、ピーチは伸びを始めた。
本来ならもう少し焦りの色を見せてもいい筈なのだが、ここでも彼女のマイペース振りは如何なく発揮されている。
「でも、せめて自分が着る物くらい、自分で選びたいわね」
 顔を洗う為に洗面所へ向かう途中、キノじいに向かってピーチは残念そうに呟いた。
「そういう訳には参りません。一国家の元首をお出迎えする以上、こちらも正装で以て対応しなければなりませぬ」
 ピーチが冷たい水で眠気を醒ましている間に、キノじいはある意味では冷淡な返答をした。
 もっとも、ピーチの方は彼がそういった返事をする事を予想していたらしく、
「…分かってるわ。言ってみただけよ」
 キノじいからタオルを受け取ると同時に、そう言ってみせる。
「さて、と。今日はゼルダと初めて顔を合わせる大事な日ですから、しっかり準備して、非礼の無いようにしなくっちゃね。ではキノじい、また後で」
「…はい。また後程…」
 キノじいは一礼した後も、去っていくピーチの後姿をずっと見送り続けていた。
 ハイラルの姫君、ゼルダが騎士団を伴ってキノコシティに到着したという報告が舞い込むのは、その数刻後である。

 ピーチ城へ辿り着いたハイラルの旅団は、王室の召使いらによって丁重に出迎えられ、君主であるゼルダがピーチと面会をしている間に、城の中庭に案内され、そこでしばしの休息をとっていた。
「よくやったな、お前達。お陰で予定通りに事が運びそうだ。少し暇をやるから、その間に飯を食っておくがいい」
 騎士団長の指示を受けて、兵士達は三々五々城下町へと降りていくが、リンクだけはその場を離れずに一人剣術の練習をしていた。
「リンク…。お前、まだここに残っていたのか」
 声をかけてきたのはインパであった。
「インパ様、姫のお傍を離れて宜しいのですか?」
 彼女はゼルダがピーチに会いに行く時に付き添いをしていた筈である。
「心配要らん。姫様は既にピーチ様と打ち解けていらっしゃるからな」
「そうですか…」
 インパの話を聞いてリンクは安堵の表情を浮かべる。
長らく外交を行っていないゼルダが、初めて踏み入れる異国の地で上手く立ち振る舞えるかどうかを気にかけていたからだ。
「所でリンク。もう食事は済ませたのか」
「いえ、まだです」
 リンクは正直に答えた。
 王宮騎士として日々訓練を積んでいる彼としては、一食を抜いたところで特に身体に支障は起こさない自信は持っている。
リンクはその事をインパに告げたが、彼女は彼の考えを受け容れなかった。
「…リンク。己の体調を常に万全に整えておくのも近衛騎士の重要な任務だ」
「それは分かっています。しかし、姫様のお近くを離れる訳には…」
「お前の体だけを心配して言っているのではない。ゼルダ様の為でもあるのだ」
「姫様の?」
 ここで自分の主君の名が出てくる事に、リンクは疑問を感じた。
「そうだ。ゼルダ様はお前が飯も食わずに訓練ばかりしている事を知って、お前がその内空腹で倒れやしないかと心配しておられる」
「……っ」
 リンクはそれを聞いて大いに驚いた。
 まさか姫様が自分の事をそんなに心配なさっているとは知らなかった。
「わ、分かりました…。それでは、失礼します」
 使えるべき主人に逆に迷惑をかけているとなれば、リンクも流石に断る訳にはいかず、剣を鞘に収める他なかった。
「…まったく。ストイック過ぎるのも考え物だな」
 ばつの悪そうな顔をして城下町へと降りていくリンクの姿を見て、インパは腰に手を当てて溜息をついた。

「今日の献立は何にしようかな…」
 などとぼやきつつ、早朝から客足でごった返すキノコシティの市場を歩き回っているのは、マリオブラザーズの片割れ、ルイージである。
 兄のマリオは、現在一人で配管工としての仕事を行っている。
 昔は二人一緒に行動していたものだが、今となってはブラザーズも単独で動く事が多くなり、兄マリオが仕事に出ている間、弟ルイージが家事や依頼の受付を担当しているという仕組みだ。
「(昨日のスープがまだ残ってるから、あれにパスタでも入れてみるか…。
それから、パンも切らしてたな)」
 市場を見て回りながらこの日のメニューを考えていると、人込みの中から彼に話しかけてくる者がいた。
「あ、ルイージさん。おはようございます」
 その声の主は、頭の笠にピンク色の模様を持ったキノコ族の女性であった。
 名をキノピコといって、ピーチの執事として城で働くキノコ族・キノピオの同僚である。
「やあ、キノピコさん。お城のお遣い?」
 彼女が食料の入った紙袋を抱えているのを見て、ルイージが言った。
「ええ。今日はハイラルのゼルダ姫様がいらっしゃってるので、歓迎の晩餐会の買い出しに」
 その話はルイージ達庶民も聞き及んでいる。
更には、今日中にもピーチはゼルダを通じてハイラルとの和平条約を結び、明日にはキノコの全国民に向けてその事を公表するとも。
つまり、今日の晩餐会は単なる歓迎の意味だけでなく、条約の調停を円滑に進める目的の為にも、是が非でも成功させなければならない。
 キノピコは、その料理に用いる為の良質な具材を探していたのだろう。
「そうか。ハイラルのお客さん達に喜んでもらえるといいね」
「そうですねぇ…」
 かようなやり取りをしつつ、二人は市場を散策していたが、その中央にある広場に近付くにつれて、辺りは騒がしくなっていった。
 場所が場所であるので当り前の事だと思われるかも知れないが、普段からこの市場に通っているルイージやキノピコには、その様子に違和感を覚えていた。
「すみません、何かあったんでしょうか?」
 ルイージが反対方向から来た買い物客に尋ねてみると、帰って来たのは思いがけない答えだった。
「あ、あんたら、今広場には行かない方が身の為だぜ…。山賊共が暴れてやがるんだ!」
「何ですって!?」
 驚きのあまり声を上げたのはキノピコである。
 異邦人達を客として迎え入れた矢先にこのような事件が起こってしまっては、国家の威信にも影響が及ぶ恐れがあるのだ。
「それは拙(まず)いね…。行って止めさせないと」
「だったら私、警備隊に連絡してきます!」
 キノピコの提案を承知すると、ルイージは市場の中央へと急いだ。

 一方、市場にはハイラル王宮近衛騎士団の一員・リンクの姿もあった。
少し遅い朝食を摂るべくここへやって来たリンクであるが、最初はルピーやコインといった通貨の違いをどうしているのか疑問に思っていた。
 だが、やがて両替商の店を発見する事で、その疑問点は解消された。
 流石に、トリュフ大陸屈指の大国は、異国民に対する配慮も行き届いている。
所持金のルピーを支払いコインへと両替する際に、リンクはそんな事を思っていた。
「よぅ、兄ちゃん。キノコ王国原産のスーパーキノコ、一つどうだい?」
 現在、リンクがいるのはキノコ売りの露店の前である。
 白い斑点の模様が着いた赤い笠が特徴の、拳大より一回り大きなキノコを見て、リンクは買うかどうか迷っていた。
 キノコ国民ではないリンクには、食事をキノコだけで済ませるという習慣が無い。
それ故に、どうしても抱いてしまう疑問がある。
「キノコだけで飯が賄えるのか?」
「勿論だ、栄養価の高さは国のお墨付きだぜ?」
 キノコ売りが笑みを浮かべる。
胡散臭さを拭い去る事は出来なかったが、郷に入らば郷に従えという諺があるように、ここは現地の人の言う事は素直に受け入れるべきであろうと、リンクは結論付けた。
彼はその店でスーパーキノコを購入し、のちには乳製品屋で母国からの輸入品と思われるロンロン牛乳を見付けたので、それも買っておいた。
「さて、飯にするか」
 早速スーパーキノコの力をその身で以て確かめるべく、中央の広場に向かおうとした。
そこで彼は、思いもよらぬ光景を目にする事となる。
「!? あれは…」

 デスマ山から少し離れた所に、小高い丘に囲まれた窪地がある。
 そこでは、緑衣に身を包み、剣と盾を構えた人物が、紫色のタコのような姿をした魔物の群れとの戦闘が行われていた。
 魔物の名はオクタロック。
ハイラルではごく一般的な魔物であり、その生態なども詳細に調べられているメジャーな存在である。
基本的な戦闘術を会得していれば左程問題なく追い払う事が出来るのだが、今回に限っては集団で出現した為に、緑衣の剣士は一人、苦戦を強いられていた。
「はっ!」
 護身用の武器であるコキリの剣を振り下ろし、一匹のオクタロックを斬り付ける剣士。
だが、間髪入れずに次のオクタロックが襲いかかってくるので、剣士は少しずつであるが劣勢に立たされていった。
 オクタロックが吐いてくる石をデクの盾で防ぎつつ、剣士は僅かな隙を突いて反撃をしようとしていたが、その機会は中々訪れない。
「(一体、どうすれば…)」
 剣士の焦りが徐々に高まっていく中、転機は全く予想だにしない所で起こった。
突如として、上空から雨のように火の粉が降りそそぎ、オクタロックの群れを焼き払ったのだ。
 剣士は文字通りに仰天した。
見上げた先には背中に生えた巨大な翼を羽ばたかせた女性の姿があり、両手には燃え盛る炎のエネルギーを灯している。
「(今度は…、亜人型のポケモン?)」
 魔物の群れを退け、自分の近くに降りてくるリザードンを前に、剣士はコキリの剣を構えた。
「おい、待てよ。俺達は敵じゃねぇぞ」
 そう言って剣士の前に姿を現したのは、シゲルであった。
 かくとうむすめ風の出で立ちをしたヘラクロスと、魔道士のようにローブをまとったムウマを伴っているの見て、剣士にも、自分と変わらない程度の年齢と思われるこの少年がポケモントレーナーである事は判断出来た。
しかも、通常のそれではなく亜人型のポケモンを手持ちに加えている所から、それなりに実力のある人物であるとも。
 亜人型の携帯召喚獣というのは、その種族の中でも特に強い魔力を持つ為に、ヒトの姿を借りて知能を得た個体の総称であり、基礎能力の高さ故に、契約を結ぶのは非常に困難であるとされている。
 だが、このトレーナーが何故このような場所を訪れていたのかは、剣士にも推測出来なかった。

「うわっ!」
 山賊の斧による手痛い一撃を受け、ルイージの身体は石畳の上に叩き付けられる。
「おいおいどうした…? そんなものか…」
 倒れ込んだルイージの姿を、山賊達は嘲笑した。
「てんで大した事ねぇな…。おい、こいつが本当にあのマリオブラザーズの弟なのか?」
「本当さ。もっとも強いのは兄貴の方だけで、こっちはおまけみたいな物だがな」
「だったら兄貴が来る前に片を付けとこうぜ」
 その山賊の発言に同意したのか、彼らは一斉に斧をルイージに向けて振り上げ始めた。
 斧を得物とする荒くれ者達・バンデットの放つ攻撃は一発辺りの威力が非常に高い。
直撃すれば、ルイージと言えども耐え切れる見込みは無かった。
「あばよ、弟さん。怨むんだったら助けに来なかった兄貴にしといてくれよ…」
 それを皮切りに、バンデット達が攻撃を開始したので、ルイージも自らの死を覚悟しなければならなかった。
 一陣の風の如くその場に現れた金髪の青年が、ルイージに代わってその攻撃を受け止めるまでは。
「……っ!?」
 青年=リンクの登場は、ルイージだけでなく、山賊達の間にも衝撃をもたらした。
「手前…、何の真似だ!?」
「それはこっちの台詞だ。お前らこそ、朝っぱらから何をやってる」
 リンクは山賊の斧を防ぐのに用いたハイリアの盾を右手で構えたまま、もう一方の利き腕で背中の鞘から剣を引き抜いた。
「大勢で寄ってたかって一人を狙うとはな…。恥を知れ」
 そう言うとリンクは、山賊団を相手に一人斬り込んで行った。
 キノピコからの通報を受けた街の警備隊が到着するまでに、彼は鮮やかな剣術で山賊達を斬り捨ててしまうのであった。

「はい。これでもう大丈夫ですよ、ルイージさん」
「どうもありがとう」
 山賊達の処理を警備隊に任せた後、ルイージはキノピコからライブの杖による治癒を受けていた。
彼は体のあちこちに斧の刃による傷痕を創ってはいたが、命に別状はなかったようで、キノピコの魔力でも十二分に対応出来る程度であった。
「それにしても、この国でもあんな犯罪者が横行するようになるなんて…。
やっぱり自警団を設置するだけでは駄目なんでしょうか…」
 キノピコが溜息をつくと、それに釣られてルイージも地面を見つめながら呟いた。
「この不景気の時代じゃ、それも仕方の無い事なのかもね…」
 二人がそんな話をしていると、警備隊からの事情聴取を終えたと思われるリンクが、彼らの元に歩み寄って来る。
「あ、君は」
「ああ。もう身体はいいのか?」
 リンクに尋ねられて、ルイージは軽く頷いて見せた。
「彼女が治療してくれたんだ」
「そうか。…すまなかったな、俺がもう少し早くに来ていれば…」
「気にしなくていいよ。結果的にはとても助かったからね」
「あ、あのルイージさん…、こちらの方は…?」
 ルイージに紹介されたキノピコであったが、突然現れたリンクに対して多少警戒しているようであった。
その様子を見て、ルイージが解説を加えていく。
「彼はね、さっき僕を山賊達から守ってくれたんだ。そう言えば、まだ名前を聞いてなかったね。
僕は、ルイージ。それと、彼女は王族の方にお仕えしているキノピコさん」
「ど、どうも…」
 キノピコが丁寧な動作で頭を下げる。
「俺はハイラル聖王国から来たリンクという。しばらくはこの国に滞在する予定だから、また会う事もあるだろう」
 そう言って、リンクはルイージに自らの立場を告げた。
 東方の草原からやって来た緑衣の剣士と、英雄マリオを兄に持つ緑の配管工。
グリーンというキーワードが結んだ、奇妙な縁(えにし)における二人の出会いであった。

<第5話 用語集>
・デスマ山(元ネタ:『もぎたてチンクルのばら色ルッピーランド』)
原作ではサンバーン大陸に存在する大山。標高二万メートル。

・モンスターボール(元ネタ:『ポケットモンスター』シリーズ)
携帯召喚獣と契約を交わす為に用いる球体状の装置の中で、最も一般的なタイプの物。

・携帯召喚獣・亜人型(元ネタ:本編オリジナル)
ポケモンの中でも高い魔力を持つ者が、ヒトの姿を借りて知能を得た個体。通常のポケモンより契約を交わしにくいとされている。

・よなきポケモン(元ネタ:『ポケットモンスター』シリーズ)
ムウマの別名。ちなみに、ヘラクロスは1ぽんヅノポケモンであり、リザードンはかえんポケモン。

・キノコ族(元ネタ:『スーパーマリオ』シリーズ)
キノコ王国のマジョリティを構成する種族。比較的低身長である。

・ルピー・コイン(元ネタ:『ゼルダの伝説』シリーズ・『スーパーマリオ』シリーズ)
それぞれ通貨の名称を指す。ルピーはハイラル聖王国、コインはキノコ王国の通貨。

・スーパーキノコ(元ネタ:『スーパーマリオ』シリーズ)
キノコ王国の特産物。高い栄養価が売り。

・ロンロン牛乳(元ネタ:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』)
ロンロン牧場で精製される牛乳。国外にも輸出されている。

・オクタロック(元ネタ:『ゼルダの伝説』シリーズ)
ハイラル地方ではメジャーなタコの魔物。石を吐いて攻撃してくる。

・コキリの剣(元ネタ:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』)
森の民・コキリ族によって作られた剣。軽量で扱いやすい。

・デクの盾(元ネタ:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』)
コキリの剣と同様・コキリ族が作り上げた木製の盾。

・かくとうむすめ(元ネタ:『ポケットモンスター ファイアレッド・リーフグリーン』)
かくとうタイプのポケモンの使い手として登場するトレーナー。

・魔道士(元ネタ:『ファイアーエムブレム』シリーズ)
魔道書を用いて、理魔法を操る者達。炎魔道士・風魔道士・雷魔道士といったカテゴリーがある。

・バンデット(元ネタ:『ファイアーエムブレム』シリーズ)
山賊や海賊の構成員として登場する荒くれ者達。斧を使用する。

・ハイリアの盾(元ネタ:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』)
ハイラル王宮騎士団の装備する鋼鉄製の盾。リンクは王宮騎士に入隊する際にこれを授かった。

・ライブ(元ネタ:『ファイアーエムブレム』シリーズ)
ごく一般的な回復魔法の杖。

SMASH BROTHERS STORY 第4話「音速の鉄拳」

「…しかし連中、まだ来ねぇのか? 指定時刻はとっくに過ぎてんぞ」
 落ち着かない様子で店内の壁にかけられた時計に何度も視線をやりながら、ボンカースが呟いた。
「あまり不審な挙動は取るな。何処でハンター共が見てるか分からんからな」
 テーブルを挟んでボンカースとは反対の方向に座っているバグジーが彼をたしなめるように言った。
 こういった裏世界での取引において、交渉相手が来ているかをあらかじめ確認しておく為に、指定した時間より二、三時間遅れてからやって来ることなど日常茶飯事だ。
「ったく! 奴ら今更になって取引中止とか言いやがるんじゃねぇだろうな!?」
 自分が腰掛けている椅子が玉座でもあるかの如く、踏ん反り返ってぼやくボンカース。
 だがその時、店の出入り口を注意深く観察していたバグジーが突如叫ぶ。
「お、おい、来たぞ! あいつらじゃないのか!?」
「んっ?」
 彼の声に釣られてボンカースも同じ方向を向いた。
 すると、酒盛りに興じている人々の間を掻き分けるようにして、二人の人物がこちらのテーブルに近付いて来ているのが確認出来た。
 肌色を基調とした軍服と思しき物をまとい、恐らく地球のブタを模ったのであろうマスクを着用した、奇妙な人物達だった。
彼らはボンカース達のいるテーブルまで歩いてくると、単刀直入に話しかける。
「…例の物は?」
「ここにある」
 バグジーが答えると、自分達の足下に置いてあった鋼鉄製の箱を机の上に載せた。
「確認させてもらう」
 ブタマスクの一人が言うと、箱を開き、その中身を覗き込んだ。
 中に入っていたのは、手の平に収まる位の大きさをした球体である。
携帯召喚獣と契約を交わす為のモンスターボールに似ているが、一般に流通しているそれと比べると何処か禍々(まがまが)しい造形をしている。
「…確かに」
 どうやら思っていた通りの物が入っていたらしく、ブタマスク達は頷き合うと箱の蓋を閉じ、その箱を自分達の方へと引き寄せた。
「んじゃ、あんたらが持ってきたブツをこっちへ渡してくれねぇか?」
 今度はボンカース達が質問する番となった。
 二人の今回の仕事は、二つの秘密結社間で行われる取引の運び屋としての任務である。
取引相手にブツを渡すだけでなく、相手側が交換条件として用意してきた別のブツを受け取り、依頼を出した組織に引き渡す事で、初めて任務完了となるのだ。
「いいだろう」
 マスクを被っているので二人の内どちらが言ったのかは判らないが、兎に角ブタマスクの一人がそう言うと、持ち込んできたアタッシュケースをボンカース達の前に差し出した。
「お前達の依頼主が欲しがっていたブツは、その中だ」
「へへ、どうも…」
 ボンカースは微かに笑みを漏らすと、アタッシュケースに手を伸ばした。
 取引成立の瞬間である。

「そこまでよ」
「……?」
 突如として、背後から突き刺すように鋭い女性の声が聞こえたかと思うと、ボンカースとバグジーの後頭部には銃口が突き付けられていた。
動作の主は勿論、先程から彼らの動向を見張っていたサムスとジョディである。
「貴方達…、自分が賞金首である事は分かってるわね?」
「俺達を銀河連邦に突き出そうというのか」
 ジョディの問いに、バグジーは逆に質問を返した。
問答を通じて、彼女達の情報を探り出すつもりなのだ。
「そこまで分かってるなら、大人しく従ってほしいものね」
 お尋ね者達がさして慌てもせず、また抵抗も見せなかった事が、ジョディの警戒心を一層強める。
「へっ、姉ちゃん達よぉ…。俺らも裏の世界じゃちっとは名の知れた賞金首だ。
簡単には捕まってやらねぇぜ?」
 ボンカースの顔に笑みが浮かぶ。
 それを見たサムスは、以前に彼らを追っていたハンターが何人か行方不明になっているという事実を思い起こした。
それなりに実力はあると考えられる。
「…もっとも、この状況で何か出来るとも思えないけど」
「へへ…、違ぇねぇ」
 サムスの言葉に、ボンカースは不敵な笑みを浮かべ続けている。
「御託はいい。…失せろ」
 ブタマスクの一人がマシンガンを取り出し、サムスとジョディ目掛けて乱射した。
 それが、戦闘開始の合図となった。
 ブタマスクの動きを察知したサムスとジョディは急いでその場を離れ、体勢を立て直す。
「こんな人の多い場所でいきなり発砲なんて…。やってくれるわね」
「相手の方は兎も角、私達は銃を使わずに行くわよ。ジョディ、貴女、接近戦は大丈夫?」
「護身術の嗜みくらいは心得てるわ」
 店の中で拳銃の撃ち合いなどしたら、確実に周囲の客にも被害が出てしまう。
それを抑える為にも、彼女達は出来るだけ近接戦闘に持ち込まなければならないのだ。

「おい、貴様ら! 俺達まで狙うたぁどういう事だ!」
 一方、ブタマスクの攻撃のとばっちりを受けたボンカースは怒りを露わにしていた。
「別にお前達を狙った訳ではない。お前達が敵の傍にいたというだけだ」
「俺らのせいだってのか!?」
「その辺にしておけ。今は奴らを退けるのが優先だ」
 バグジーが、正論を以てして相棒を制する。
「確かにそうだな。今の所は四対二でこっちが有利…。姉ちゃん達、覚悟しな!」
 ボンカースは、ハンマーを構えて彼女達に突進していった。
 バグジーも慎重に様子を伺いながらそれに続く。
「(あの女達…。一人は銀河連邦のサマーか…。増援を呼ばれると厄介だな。
それと、あの青いスーツの女は初めて見る。奴も銀河連邦の一員なのか?)」
 銀河系屈指の実力を持つバウンティ・ハンターと言われる、サムス・アランが女性であるという事は知られていても、そのパワードスーツの下の素顔を知る者は非常に少ないのである。

「面倒な事になったな。我々はどうする?」
 他の者達が既に戦闘に入っている中で、ブタマスク達は今後の動向を相談している。
お尋ね者達を囮にして逃亡する事も可能とは考えられるが、ここで逃げ去った所で安心させてくれる程、銀河連邦の監視の目は甘くない。
「連中を始末する。情報を漏らされる前に握り潰すぞ」
 ブタマスク達の構えた機関銃が火を噴いた。

 戦闘が始まってから既に一分以上経過している。
 だが、店内の客は一向に店を出る気配を見せていなかった。
勿論、中には店員の指示に従って素直に退出してくれる者もいたのだが、酒場の常連客にとっては喧嘩など日常茶飯事。
 退屈凌ぎには丁度いい見世物なのである。
 それどころか、二人の女性と賞金首達のどちらが勝つかを、賭けの対象とまでしている者達まで現れる始末だ。
「全く…。こっちは真剣にやってるって言うのに、いい気な物ね」
「あら、私はギャラリーが大勢いてくれる方が気合が入るけど?」
 周囲の有様に呆れるサムスに対して、ジョディは確かに多くの観客に囲まれて、テンションが上がっているように見える。
これも、F-ZEROレーサーとしての性なのだろうか。
「そこの姉ちゃんと同感だな。闘技場みたいで面白ぇじゃねぇか」
「んな呑気な事を言ってる場合か」
 バグジーもまた、サムスと同じ意見を持っていた。
「あまり騒がれると後々厄介か…」
「事態が大きくなる前に店ごと潰してくれる」
 戦闘がずるずると長引き、決着が着かない事に業を煮やしたブタマスク達は、辺りを構わず爆弾を投げ付け始めた。
それらはあくまで牽制用だったので大した威力では無かったが、このまま野放しにしておけば更に被害を増やしかねない。
「(あの兵隊達…、放っておく訳にはいかないようね)」
 そう考えたジョディは、クワガタムシの様な大顎を振りかざして襲いかかるバグジーとの戦いを一時中断し、ブタマスクの一人の近くへと駆け寄った。
「?」
 ジョディの驚異的に素早い身のこなしに、ブタマスクは完全に対応が遅れてしまい、受け身を取る事すらできずに彼女の回し蹴りを直に食らってしまう。
キックの衝撃でブタマスクは空中へ浮かび上がったかと思うと、その後壁に頭を強打し倒れ伏した。
 どうやら気絶でもしたらしい。

「まずは一人ね」
「それでも二対三。状況が悪い事には変わりないわ」
 サムスの言葉にボンカースが答える。
「その通りだ。勝負はまだこれからってこった」
 そう言うと、ボンカースは得物のハンマーを振り上げてサムスに攻撃を仕掛ける。
動きが比較的遅いので、サムスにとっては難なく避ける事ができるが、ハンマーをぶつけたテーブルや椅子が粉々に砕け散っているのを見ると、相当な威力を持っている。
パワードスーツを装着していない今の状態では、一撃でも当たれば命取りになってしまうだろう。
「俺の攻撃をここまでよけやがるとはなぁ。やるじゃねぇか、金髪(キンパ)の姉ちゃん」
「…それはどうも」
 サムスは愛想の無い返事をした後、反撃に出るべく、携帯用のパラライザーを接近戦用の武器・『プラズマウィップ』に変形させた。
 この武器は近距離用の物にしてはリーチが長く、離れた場所から攻撃出来るというのが強みだが、パラライザーのエネルギーを元にして作られているので、威力は低い。
ボンカース程の巨体の持ち主であれば、かすり傷程度のダメージを与えるのが関の山である。
「くっ…!(やはりパワードスーツ無しでの戦闘は厳しいか…)」
「そんな攻撃じゃこの俺には勝てんな」
 唸り声を上げ、ボンカースはサムス目掛けてハンマーを何度も振り下ろす。
 後ろに下がりつつその攻撃を回避し続けるサムス。
「サムス、後ろ!」
「…っ!」
 ジョディが焦燥した声色で叫んだ時には、既に手遅れであった。
 ボンカースの攻撃を回避するのに気を取られて、後方への注意が散漫になっていたサムスは、いつの間にか自分の背後に接近していた伏兵の存在に気付くのが遅れてしまっていた。
「しまった…」
「フン、ようやく隙を見せたか。苦労したぞ、ここまで近付くのにはな」
 バグジーは大顎を使ってサムスの身体を捕らえると、そのまま空中に飛び上がり、パイルドライバーの体勢に入った。
 パイルドライバーとは、相手を掴んでから跳び上がり、真下へ叩き付けるスープレックス技の一つである。
相手を頭から地面などに激突させるので、大抵の場合は受け身を取る事が出来ず、その時の衝撃をもろに受けてしまう。
技を受けたのが、鳥人族から戦闘術の手解きを受けたサムスでなければ、大打撃は免れない所であったのだ。
「くっ…、不覚を取られたわね…!」
 よろめきながらも立ち上がったサムスの姿を見て最も驚いたのは、パイルドライバーをかけたバグジー当人であった。
「何! さっきの一撃でも仕留められないだと…。お前、何者だ…!?」
「何者だろうが、これで仕留めちまえば関係ねぇぜ」
 今度はボンカースがハンマーを構えてサムスに突進していく。
「…っ!」
 やはりパイルドライバーを受けた時の衝撃はかなりの物だったらしく、サムスはボンカースの姿を頭では認識出来ても、その後の動きを運動神経に伝える事は叶わなかった。
「サムス!」
 もう一体のブタマスクと近接戦闘を行っていたジョディが再び彼女の名を叫ぶ。
その間にも、お尋ね者の構えたハンマーは確実にサムスとの距離を縮めている。
 だが、攻撃を受けて吹き飛ばされたのは、サムスではなく、ボンカースの方であった。
ボンカースの巨体は攻撃した時以上の速度で、後方にある積み置かれた木箱へ激突した。
 無論、サムスが反撃に出た訳ではない。
「!? 何が起きた…」
 ゆらりと立ち上がりつつ、ボンカースは状況を把握する為に前方を見据えた。
 するとサムスの前に、彼女を守る盾のごとく、立ちはだかる一人の人物がいる事に気が付いた。
紛れもなく、ボンカースを先程攻撃したのはこの者であろう。
そして、その姿は彼にも見覚えのある者だった。
「お前は…、まさか…」
 彼がみなまで言う前に、サムスがその人物の名を口にした。
「キャプテン・ファルコン……」
「水臭いな、サムス」
 鍛えに鍛え抜かれた屈強な肉体に青いスーツをまとい、赤いヘルメットを装着したその男は、ようやく体勢を立て直した宿敵に向かって話しかける。
「こんな楽しいイベントを開催するのなら、この俺にも一言伝えておいて欲しいものだがな」
「さっきまで酔い潰れてた人が言える台詞じゃないわね」
 ジョディが呆れたような表情で言った。
「まぁな。だが、この騒ぎで酔いは醒めた。俺も加勢しようではないか!」
 ファルコンは、酒場全体に響き渡らんほどの大音声(だいおんじょう)で言い放った。
彼の登場により、見物客達が更に歓声に沸き上がったのは言うまでもない。
「畜生…、まだだ! まだ終わりじゃねぇ!」
 その表情に怒りを顕わにしながらボンカースは立ち上がり、ターゲットをファルコンに移して再びハンマー攻撃を仕掛けようとする。
 だが、すぐ前にいた筈のファルコンの姿は何処かへ消え失せていた。
 そして、気が付いた時には、彼は既にファルコンに懐を取られている状態であった。
「ファルコンッ、パンチ!!」
 青きハヤブサが振り上げた拳は、ボンカースの腹に直撃すると同時に、炎に包まれた鳥型のオーラを放ち、その巨体を店の壁面にまで吹き飛ばした。

 勝負が着いたのはごく短い瞬間であった。
 ボンカースの身体は壁にめり込み、その周囲に大小の亀裂を走らせている。
そこから離れて床に倒れ込んだ時点で、彼は既に気絶していた。
「ふははは! 見たか! これぞ音速の鉄拳・ファルコンパンチだ!」
 右の拳を高く突き上げ、勝利宣言をするキャプテン・ファルコン。
 この様を見て、後に残されたバグジーやブタマスクらが戦意を喪失したとしても、それは無理のない事であっただろう。

「フン…。しかし、まさかあんたがかのサムス・アランだったとはな…。
道理で俺のパイルドライバーにも耐え抜く訳だ」
「………」
 パワードスーツを身に着けていない状態のサムスを見て、バグジーは溜息交じりに呟いたが、対するサムスの反応は無言であった。
「で、こいつらはどうするんだ? 取り敢えず銀河連邦に引き渡すのか?」
 ファルコンが傍らにいるジョディに向かって尋ねる。
 戦闘も終わった現在では、酒場は普段の活気を取り戻し、先程の行った賭けのやり取りで賑わっているので、普段ならうるさく感じる程の彼の声も、ここでは左程気にならない。
「そういう事になるわね。事情聴取もしなきゃならないし…」
「無駄だ。我々は内部の情報は決して漏らさぬ」
 他の三人と同様、万一の場合に備えて抵抗出来ないように簀巻きにされたブタマスクの一人が言った。
「見上げた忠誠心じゃねぇか。よほど好待遇の組織なんだろうな?」
 唇の端からファルコンが笑みを漏らす。
 感心などしている場合か、と言わんばかりにジョディは彼の発言を無視して話を再開した。
「まぁ、彼らが取引に使っていた物を調べれば、何かの手掛かりは掴めるでしょう。ちょっと本部に連絡してくるわ」
 そう言って、ジョディは店の外へと出て行った。
 後に残されたサムスとファルコンの間には、しばしの沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは、意外にもサムスの方からであった。
「ファルコン」
 サムスの素っ気ない呼びかけに、彼も一言も発せずに答える。
「さっき助け舟を出してくれた事には…、素直に礼を言うわ。…ありがとう」
 ファルコンはサムスの言葉を聞いた途端、顔を引きつらせ始めた。
「まさかお前の口からそんな台詞を聞くとはな……。こいつは大異変の前兆って奴か?」
「馬鹿な事言わないの。それよりこの後、私達に付き合う時間はあるわよね?」
 それを聞いたファルコンは飲み直しにでも行くのかと思ったが、サムスによると、さっき捕らえたお尋ね者達の賞金を山分けしたい為に彼に同行を申し出たいのだという。
勿論、彼は金目当てで加勢した訳ではないのだが、宿命のライバルであるサムスがそのような事を言うのは非常に稀有な事態なので、ここは無理に拒む理由もない。
「いいだろう。しかしお前も結構義理堅い奴だな。宇宙の傭兵にとっても信用は大事だ」
 感心した様子で呟くファルコンを前にしても、サムスはいつものようにクールに返しを繰り出す。
「そういうのじゃないわ。ここで借りを作って、弱みを握られたくないってだけよ」
「お前なぁ…! 俺を一体何だと思ってやがる!」

 ファルコンによる怒りの抗議は、店の外にいるジョディの耳にも聞こえていた。
 それに気付いたジョディが窓越しに酒場の中を覗いてみると、そこでは、感情的にサムスに突っかかっていくキャプテン・ファルコンと、そんな商売敵を殆ど無関心に受け流すサムス・アランの姿があった。
彼女にとっては、普段からよく目にする日常的な風景の一つである。
「(何だかんだ言ってあの二人、割と仲いいわよね…)」
 二人のバウンティ・ハンターの様子を見て、ジョディはそのような感想を抱いたのだった。

<第4話 用語集>
・ブタマスク(元ネタ:『MOTHER3』)
名前の通りブタのようなマスクを被った正体不明の組織の構成員。近代的な兵器を装備し、裏の世界を舞台に暗躍する。少佐、中佐、大佐など階級が定められており、それぞれ位によって軍服の色が異なる。

・パワードスーツ(元ネタ:『メトロイド』シリーズ)
サムス・アランが任務の遂行時に装備している強化戦闘服。スキャンバイザー・アームキャノンなどの様々な機能が内蔵されている。このスーツはサムスが鳥人族から授かった物であると言われている。

・パラライザー(元ネタ:『メトロイド ゼロミッション』)
ゼロスーツサムス(パワードスーツを装備していない状態のサムス)が使用する麻酔銃。相手への牽制用で、殺傷力は無いに等しい。

・プラズマウィップ(元ネタ:『大乱闘スマッシュブラザーズX』
パラライザーを鞭状に変形させた物。基本的にはパラライザーと同じエネルギーで構成されているので、攻撃には向かない。相手を拘束する際に使用される。

・パイルドライバー(元ネタ:『星のカービィ スーパーデラックス』)
コピー能力『スープレックス』の技の一つ。掴んだ相手を地面に叩き付ける。

・ファルコンパンチ(元ネタ:『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』)
キャプテン・ファルコンの必殺ワザの一つ。隙が生じやすいが、その分威力は絶大。

SMASH BROTHERS STORY 第3話「バウンティ・ハンター」

 ポップスター銀河系・惑星ケビオスは、かつては豊富な地下資源が眠っていた事で知られた、鉱山の星であった。
全盛期には多くの大企業がこぞって土地を買い、この星の良質な鉱物を採取するのに熱心であったものだ。
 しかし、その過剰な開発の為に、ケビオスの地下資源はほとんどが掘り尽くされてしまい、現在では数箇所に残された鉱山が細々と動き続けているのみで、残りはみな廃墟同然になっている。
 以前の面影を失った惑星ケビオスは、洞窟の星と称され、うち捨てられた鉱脈跡は、宇宙に蔓延(はびこ)る犯罪者や賞金首達の巣窟と化していた。
 そして、そんなならず者達を狙う賞金稼ぎ、すなわちバウンティ・ハンターと呼ばれる人種達も、頻繁に訪れる場所でもある。

 惑星の地下を縦横無尽に走る坑道。
 その中を、二つの影がうごめいていた。
 正体は、とあるバウンティ・ハンターからの追跡を辛くも逃れ、この星に逃げ込んだ犯罪者達である。
「ふぅ…。ここまで来りゃ、流石に追って来られねぇだろ…」
 お尋ね者の内の一人、ボンカースは、暗い洞窟の壁にもたれながら青息吐息で呟いた。
犯行を行う以前に、この坑道の地図を入手しておき、隠れるのに相応しい場所をあらかじめ検討しておいたので、絶対に捕まらないという妙な自信が彼にはあったようだ。
だが、共犯者であるバグジーは、不安と焦りの色をその表情に隠す事が出来ないでいた。
「おい、逃げ込んだのはいいが、これからどうすんだよ? ずっとここに隠れてる訳にはいかねぇぞ」
「心配すんな。この地下通路なら簡単には見つからんさ。隙を見てこっから脱出する」
 そう言って、ボンカースは坑道内の見取図を広げてバグジーに見せた。
 ルートの幾つかの地点には赤い丸がついており、それらは出口に繋がっているのだ。
「だったら、とっとと脱出しようぜ。またハンターの奴が追ってくる前にな」
「それもそうだな」
 バグジーの提案にボンカースが賛成したので、二体は持ち運んできた鋼鉄製の箱を持ち上げ、その場を後にした。
 裏の仕事を生業としている彼らは今回、ある組織同士が取引に用いているというブツの運び屋としての依頼を請け負っていた。
彼らが担いでいる鋼鉄製の箱がそれだ。
「所でよ……」
 ボンカースが口を開く。
「この箱、一体何が入ってんだろうな? 大した重さじゃねぇみてぇだが」
「んな事知るかよ。それより脱出するのが先だ」
 炭坑内の地図を確認しながら、裏の仕事人達は、脱出用の小型宇宙船を格納した非常口へと急いだ。

 銀河系最大の惑星間交易都市の名を挙げてみよ。
 広大な宇宙空間を航行する宇宙船を適当に何隻か捕まえ、そのパイロットに質問すれば、大抵返ってくるのはポートタウンという答えであろう。
 ここでは日夜を問わず、街の各地で様々な星から来航した貿易宇宙船が活発に取引を行われており、そのような商人達の集う酒場が多数存在する。
 そこにやって来るのは、各惑星の承認を受けた正式な貿易船に乗っている貿易商人から、小銭稼ぎの為に密輸の仕事を請け負ったならず者にまで及ぶ、種族を問わない実に多様な生命体達であった。
彼らは酒場の客達との間に独自のネットワークを構築し、互いに情報を交換しているのだ。
「………」
 町外れにある一際年季の入った酒場の前に、一人の女性が佇んでいる。
 スタイルの良い身体のラインにフィットした青いスーツをまとったその人間の女性は、長い金髪をポニーテールに束ねており、人間の目から見れば、かなりの美人であろう。
「………」
 彼女は無言のままで、携帯用の電子地図を目の前に広げた。
送られてきたデータによれば、目的地はこの場所で間違いない筈だ。
 ポートタウンでは珍しいノブ付きの扉を開けて店内に入ると、時刻が真夜中であるにも拘(かかわ)らず、多くの客で賑わっていた。
待ち合わせの相手を探すべく女性が店の奥に進んでいくと、壁際のカウンター席から彼女を名前を呼ぶ声がするのを聞き付けた。
 女性の声であった。
「サムス、こっちよ!」
「ジョディ」
 それを聞いたサムス・アランの表情が初めて綻んだ。
 サムスが銀河連邦に所属していた時の同僚、ジョディ・サマーとの久々の再会であった。
「しばらく振りね。最後に会ったのはいつだったかしら?」
 ジョディの隣の椅子に腰掛けながら、サムスが訊く。
「そうね…、前のF-ZEROの大会があった時以来かな」
 もうそんなに月日が経っていたのか、とサムスが考えていると、ジョディの真横にある席から聞き覚えのある(のだが思い出したくない)、やたら大きな声の男が話しかけてきた。
「もうあれから四年余りの年月が過ぎた。月日が経過するのはいつも早いものだな! 我が永遠のライバル、サムス・アランよ!」
「これはどういう事? ジョディ」
 サムスはその男、キャプテン・ファルコンの発言を無視してジョディの方へ顔を向けた。
「どうしてこの男がいる訳?」
「そ、それが…。今日ここへ来てみたら偶然一緒になって……」
 サムスとファルコンの共通の友人であり、二人の因縁関係も十分に承知しているジョディは、ばつの悪そうな返事をする他無かった。
 キャプテン・ファルコンはF-ZERO愛好家の中では知らぬ者はいないと言われる程の有名かつ、実力もあるレーサー兼バウンティ・ハンターとして評判であるが、そういった娯楽に興味の無いサムスにとって、彼は単なる同業者でしか無かったのである。
 更に言えば、どういう根拠があるのか解からないがサムスを何故かライバル視し、事あるごとに彼女に勝負を挑んでくるファルコンは、出来るだけ顔を合わせたくない存在であった。
「偶然? いや違うな。この広い宇宙でこの俺とお前が出会ったのは、必然だ! 大いなる運命の力が我々を導いたのだ!」
「…それは素敵なことだわね」
 サムスは皮肉を込めて切り返すと、酒を注文した。
 ファルコンとの遭遇は予定外の出来事であるが、折角ジョディと再会出来たのだ。
その貴重な機会を棒に振る必要も無いだろう。
サムスは、かように結論を下したのだった。

「…まったく。お酒に弱いくせにやたらと飲みたがるんだから…」
「放っておきなさい。どうせ起きないでしょうし、その方が静かでいいわ」
 サムスが店内に入ってから僅か十数分後。
 ファルコンは既に酔い潰れており、カウンターに伏して鼾(いびき)をかいている。
 ジョディはファルコンを見て困惑しているようだが、サムスにとってはまさに好都合という物であった。
「さて…。もう十分再会を懐かしんだことだし、そろそろ用件を話してもらいましょうか」
 グラスに注がれた酒を飲み干すと、サムスはジョディの方に目をやった。
「『用件』だなんて…。そんなものは無いわ。
ただ純粋に貴女の顔が見たかっただけよ。元気でやってるかどうかね」
「隠さないでちょうだい」
 サムスは真剣な表情で言った。
 平素からバウンティ・ハンターとして銀河系中を飛び回っているサムスを、私用の為にわざわざ呼びだすなどということをジョディは絶対にしない筈である。
「…仕方無いわね。ほんとは話そうかどうか迷ってたんだけど」
 サムスの気迫に圧倒される形で、ジョディは銀河連邦がつい最近になって起こした不祥事について語り始めた。
 それは先月の事。
銀河連邦の一部隊が、惑星ケビオスの地下に建造されていたスペースパイレーツの実験施設を取り押さえ、そこで開発されていた生物兵器の押収に成功していた。
だが、それらを本部に持ち帰る前に、恐らくスペースパイレーツと何らかの関わりがあると思われる武装勢力の奇襲を受け、回収した生物兵器を奪還されてしまう。
 これらの事件は一般には殆ど公開されていないのだが、バウンティ・ハンター達にとっては既に有名な出来事となっていた。
「それなら覚えてるわ。確か、押収したのは違法改造型のキマイラだったわね」
 『キマイラ』というのは、特殊な分子工学技術によって産み出された、異なる何種類かの生物同士、あるいは生物と機械の混合体の総称である。
 スペースパイレーツは比較的早い時期からキマイラをその戦力として取り入れている事で有名であった。
「つまり、私に奪われたキマイラの回収をさせたいという訳ね」
「そういう事。…頼めるかしら?」
「………」
 サムスは無言のまま、思案していた。
今回の事件の場合、一般のそれとは違って犯人の指名手配がなされていない。
つまりバウンティ・ハンターが通常標的としている賞金首とは違い、拘束して銀河連邦に引き渡した所で、報酬が貰える訳ではないのだ。
しかし、彼女の決断は早かった。
「…分かったわ。一応、調査ぐらいはやっておきましょう。
ただし正式な依頼では無いから、優先順位は低いわよ?」
「ありがとう、サムス」
「お礼なんていいわよ。まだ犯人を捕まえた訳でもないしね」
 そう言って、サムスはボトルから酒をグラスに注いだ。いつの間にか、ボトルの中身は底をついている。
「あら、もうお仕舞い?」
 それを見たジョディがボトルの追加注文を出した。これで三本目だ。
「そういえばあそこにいる二人、さっきから全然オーダーを出してないけど、何してるのかしら?」
「何処の二人よ?」
 ジョディがいきなり話題を変更してきたので、サムスは一瞬対応するのに遅れてしまっていた。
「ほら、あの隅っこの席」
 そう言って、店の奥にあるテーブル席を指差すジョディ。
 見ると、確かにその席にはゴリラのような筋肉質の男と、クワガタムシのような外見の宇宙生物が座っていたが、ボトルやグラスなどはテーブルの上に置かれていなかった。
しきりに店内の時計に目を遣っているので、どうやら誰かと待ち合わせをしているらしい。
「(…あの二人、まさか…)」
 彼らの姿を見たサムスは突如バウンティ・ハンター必携の手配帳を取り出すと、素早く検索をかけた。
「サムス、もしかして…」
 彼女のその様子から、ジョディにも自然とサムスの言わんとする事が理解出来た。
「彼らは…、賞金首なのね?」
「ええ」
 短く答えるサムスの持つ手配帳には、今まさに同じ店内にいる筋肉質の男とクワガタムシ…、すなわち、ボンカースとバグジーの顔写真が掲載されていた。
「…奴らも油断しているみたいね。今ならチャンスだわ」
 サムスは店の隅にある、比較的小さなテーブル席にいる賞金首達に気付かれないよう注意を払いながら、彼らの様子を伺っている。
「どうするの? サムス」
「逃げられる前にこちらから仕掛けるわ。ジョディ、手伝って」
 ジョディはかすかに笑みを浮かべると、無言で小さく頷いた。

<第3話 用語集>
・ポップスター銀河系(元ネタ:『星のカービィ スーパーデラックス』)
『星のカービィ スーパーデラックス』に収録されているシナリオ『銀河にねがいを』の舞台。ポップスターを除いて、七つの惑星がある。

・ケビオス(元ネタ:『星のカービィ スーパーデラックス』)
ポップスター銀河系に位置する惑星の一つで、洞窟の星。かつては鉱山の星と呼ばれて隆盛を誇っていたが、資源の乱獲のために現在では寂れている。

・バウンティ・ハンター(元ネタ:『メトロイド』・『F-ZERO』シリーズ)
いわゆる賞金稼ぎの事で、宇宙の傭兵とも呼ばれる。サムスやファルコンもこの仕事を生業としている。

・ボンカース(元ネタ:『星のカービィ』シリーズ)
ポップスター出身の宇宙生物。外見はゴリラに近い。ハンマーを武器としている。

・バグジー(元ネタ:『星のカービィ』シリーズ)
ポップスター出身の宇宙生物。外見はクワガタムシに近い。相手に掴みかかり、投げ飛ばす技を得意としている。

・ポートタウン(元ネタ:『F-ZERO』シリーズ)
銀河系最大の交易都市。キャプテン・ファルコンの出身地でもある。

・銀河連邦(元ネタ:『メトロイド』・『F-ZERO』シリーズ)
宇宙での犯罪を取り締まる為の組織。サムス・アランもかつて所属していた。

・スペースパイレーツ(元ネタ:『メトロイド』シリーズ)
宇宙海賊とも呼ばれる。様々な星の種族の集まりで構成されている犯罪組織。銀河連邦と対立する組織の中では最大規模とされている。

・F-ZERO(元ネタ:『F-ZERO』シリーズ)
主に銀河系で行われている次世代型のカーレース。F-ZEROマシンの免許さえ所持していれば、年齢・職業などは不問で参加できるが、実際にレースに出場できるのはごく僅かな者達である。キャプテン・ファルコンはこの競技における最も有名なレーサー。
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